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愛の代償(3)

鍵を開けてもらい、中に入れば、そこは死人の臭いで溢れていた。その臭いに足がふらつき倒れそうになるのを、床に倒れている死体の山に助けられる。ひぃ、と怯え一歩下がればまた、他の死体を踏み上げてしまったらしく、呻き声一つあげない誰かの体を踏みつける感触がした。 明かりが一つもない真っ暗な部屋。けれどその奥にいる彼の姿だけは、不思議と、はっきりと見ることができた。 「君、は……」 横たわっていた体を起こした彼のもとへと駆け寄り、そっと触れる。冷たくなった彼の体に、涙がどっと溢れ出した。 ……あぁ、私に温もりをくれた彼が、こんなにも冷たい。 「ごめん、なさ、い……! 私が、私が、あなたをこんな目に、……ぁ、私の、せいで……!」 彼の前で泣きながら、もう痛みも何も分からなくなった額を打ち付ける。 「私が、願った、ばっかり、に! あなたからの、愛が、欲しいと! だから、神が、罰を、お与えに、なられ、た、のだ……!」 握りしめた手が掴むのは、石や草ばかりで、血が滲んでいく。 詫びて済む話ではないのは痛い程に分かっているものの、どうすればよいのか、何も分からない。 あぁどうして。 神をあんなにも大切にしていた彼が、欲と金にまみれた野蛮な奴らの手によって裁かれなければならないのか。 神よ、貴方は残酷な御方だ。 「ごめん、なさ、い……! あなたが死ぬ前に、私をここで、殺して、くださ、い! 今ここで……!」 本来死ぬべき者は私であって、貴方は何も悪くないのに。 「頼むから……、自分を責めるのはやめなさい」 泣き喚き自分を責めることしかできない私を見て、彼は優しく微笑んだ。

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