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ふたりの始まり。(2)
彼がいなくなってから俺は、彼が持っていた本を集めるようになった。さすがに全部は無理があるけれど、紹介してくれた本の中から俺の記憶に残っているものを中心に、手を伸ばし始めた。
教科書の話とは違い、文字数も多く文字のサイズも小さい。それが五百ページ以上もあるものばかりで、読む前から圧倒されため息をついていたし、いざ開いて見ても数行読むだけで初めは目をしゅぱしゅぱさせていた。
けれど、少しずつ読み進めるうちに、その世界にどっぷりと浸かり抜け出せなくなってしまった。君が楽しそうに、幸せそうに読んでいた理由がようやく分かったと、隣にいない彼にそう呟いた。
ごめんね。俺がちゃんと話を聞いてあの時に読んでいれば、この興奮を共有することができたのに。彼との時間をもっと有意義で濃い思い出として残せただろうに。
一度面白さを知ってからは、彼のように毎日鞄に本を入れて学校に通った。たくさんの本を買う余裕はもちろんないから、残りは図書室で借りて読んだ。中学生になっても、高校生になっても、大学生になった今でも、それは変わらない。
どうしてか当時は連絡先を教えてもらうことを忘れていたせいで、彼とはもう連絡を取ることはできないけれど、それでもこうして本に触れている時は彼を思い出すし、彼もきっと俺を思いだしているに違いないと勝手に決めつけ、それを彼との繋がりとしていた。
本は俺にとって、彼との出会いであり、絆であり、思い出であり、とにかく宝物で何にも代え難い存在なのだ。
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