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ふたりの始まり。(5)

「小山の読む本を読めば、小山がどうしてそこまで本を大切にしているのか分かると思ったんだよね。そうしてそれが分かれば、小山自身のことも分かるんじゃないかって、俺はそんな期待すらも持ってるよ」 「お前に教えるつもりもないし、読んだところで分かるはずもないだろ。……それに、そんなことを知ってどうするんだ?」 彼が本を読む理由。それはどんなものだったのだろう。俺はそこまで、知ろうとはしなかったし、そもそも知りたいとも思わなかった。 ……蕪木はどうして、そこまで深く知ろうとする? 「知ってどうするって? いつも言ってるだろ。小山が好きだから知りたいだけ」 「……だからっ、その、」 「好きの意味は、言わなくたって分かるだろう? 俺がここまでするんだからさ。友人として関わりたいだけなら、こんなことせずに“何読んでるの? 面白い?” それだけで終わるよ」 蕪木が笑った。照れくさいのか、後頭部へと手を伸ばす。真面目に言われても困るけれど、こうやって照れた態度を見せられるのも困る。そういう好きだと言われ、さらに分からなくなってきた。 「今まで本を読もうと思ったことなんか一度もなかったんだよ。でもね、どうしてか小山の存在が俺の中で大きくなって、そうしたら自然と本に手が伸びるようになった。そして俺は我が儘だから、ただの本じゃあなくて、小山の読んだ本がいい。そうすれば、二人の思い出になる。共有できるだろう?」

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