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ふたりの始まり。(6)

  俺から奪った本の表紙に、蕪木が触れた。優しく撫でた後、慎重に中を開く。いつも勝手に奪っていくくせに、本に触れるその手はひどく優しかった。意外な一面を知ったような気がして、それが何となく気に入らない。 「難しい本は苦手。文字を長く見つめるのは嫌いだ。でも俺は小山を知りたいから、今日もこの本を借りていくよ」 「だめって言っても、どうせ持って行くんだろ」 「ははっ。まぁ、そうなんだけどさ。……ねぇ、小山。俺に本なんか似合わないだろ? それでもさ、ここまでやってるんだ。だから、お前が大切にしている本との思い出に、少しでいいから俺が入る隙間を作ってほしい」 「……っ、」 蕪木が静かに立ち上がった。その姿を、つい目で追ってしまう。そのまま蕪木を見上げてしまい、ばっちりと目が合った。ふわりと笑う。優しい瞳が、髪の間から覗いた。 「俺は今日も小山のことを考えながら読む。だから小山も、この本を借りて読む俺の気持ちを考えて。そうして気が向いた時にでも、どの場面、どの表現、どの人物が好きだったか二人で話そう。……ね?」 ぽんっと、頭に手を乗せられた。何度か軽く叩かれ、初めて蕪木の手の大きさが分かった。……そうだ、半年。知り合って半年になった今も、俺は何も知らないんだな。 突然いなくなってしまった彼みたいに、蕪木が突然いなくなることは考えられないけれど、特に強い繋がりがあるわけでもないから、蕪木が俺に興味を持たなくなってしまったらそこで終わりだろう。

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