65 / 230
ふたりの始まり。(8)
授業が終わり教室を出ると、廊下には日の光が射し込んでいた。窓から外を眺めれば、青い空が広がっている。こんな日には外に出て、木の下でのんびり本を読むのがいいに決まっている。俺はたまに過ごしているお気に入りの場所へ行くことにした。この時間はあまり人通りがなく、静かに読めるはずだ。
「……っと、誰かいる?」
横たわっている誰かの姿が視界に入ってきた。近づいてみれば、蕪木だった。本を読みながら寝てしまったのだろう。開かれた本は胸元に逆さまに置かれている。
すーすーと柔らな寝息を立て、その寝顔は木漏れ日できらきらして見えた。思わず顔を近づけると、頬にうっすらと涙の痕が見えた。
「……、」
蕪木が奪っていったこの本は、悲哀漂うけれど大きく心を揺さぶられるから大好きなお話で。読む度に色んなことが見えて、月に一度は読み返すんだ。……蕪木も、読んで泣いたんだ。俺と同じ気持ちを抱いてくれたのだろうか。
「ふぅん、」
素直に気になると、そう思った。蕪木の横に腰を下ろし、少しそわそわとした気持ちで鞄の中から本を取り出す。栞を挟んだページを広げながら、横目で蕪木を見た。
「……知りたいのなら、教えてあげる。だけど、俺がここにいる間に目を覚ましたらな、」
見られてもいないのに何だか恥ずかしくなって、俺は蕪木の寝顔を見つつ、口元を本で隠した。
END
コーヤさんからいただいたイラストにつけたお話でした!イラストはブログに掲載します。コーヤさん、ありがとうございました。
ともだちにシェアしよう!