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こんな展開、望んでなかった!(1)

世間で簡単に使われているように感じる「イケメン」という言葉では、彼を表現するには相応しくないと、そう思ってしまうほどまでの美形が、俺のクラスにはいる。西園寺周(さいおんじあまね)。名前まで王子様みたいだ。 薄くて整った形をしている唇に、喋ると見える白い歯、高くすーっと通った鼻。清潔感のある香りに、短髪だけれど少し遊ばせた黒髪。切れ長の目はキリッとしていてどこか冷たさを感じるけれど、笑うと可愛らしさが覗く。 周は滅多に笑わないから、笑顔を見られることはほとんどなくて。たたでさえ見られないのに、普段の表情とのギャップで、周の笑顔の破壊力はとんでもない。一気に全てを持って行かれてしまう。認めたくはないが、男の俺でさえ彼の笑顔には心を掴まれるくらいだ。 ここが漫画やドラマの世界であれば、間違いなくいつも女子に囲まれ、黄色い声が飛び交っているのだろうと思うのだけれど、ここはそんな世界じゃない。いたって普通の共学の高校なのだ。同じ教室で、クラスメイトと共に平和な日々を過ごしている。 「……って、そっちが現実ならなぁ。そんなわけないんだよなぁ」 とんでもない美形の周がこのクラスにいる限りは、平和な日々など訪れるはずがない。漫画やドラマのような状況が、当たり前に起こってしまうんだ。……はぁ。騒がれているのは周だけなのに、その被害が俺らクラスメイトにまで及んでいる。女子は別だ。女子は周しか見えていないから、毎日が楽しいだけなんだろう。 「あーもう、頼むから平和な日々を俺にくれよ……」 そんな願いは届くことなく、今日もまた騒がしい毎日がやってくる。

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