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こんな展開、望んでなかった!(10)

離れるように頼もうと、逸らしていた目線を戻せば、周の表情に驚いた。たまに見せる、ドキリと胸がうるさくなる笑顔とは違う。見たことないくらい、黒い笑み。……周? どうしてそんな顔をしているの? 「なぁ裕樹」 「な、何? 周、何かおかしくない……?」 俺の肩を掴む手に力が入る。声がまた、少しだけ低くなる。俺は周のことを褒めたのに。何がいけなかったの? 怒らせるようなことを言った? ぎゅっと目を閉じると、さっきぶつかりそうになっていた鼻に何かが当たった。同時に聞こえる、女子の悲鳴。珍しく、男子の声まで聞こえる。目を開くと、周の顔がさっきよりも近くにあった。これじゃあ鼻もぶつかるな、とそう思ったのも束の間。それが周の唇だと分かった。 ……キス? 周が、俺に? はぁ? 思わず息が止まった俺を驚かすように、このタイミングでチャイムが鳴る。長い休み時間だったと思いながら、「授業が始まる」と乾いた笑いで周の胸を押して気づいた。次は自習だったじゃないか。 「なぁ、裕樹。だったらお前が俺と付き合え。俺の好きな奴は、お前だから」 「……え?」   「自分で言ったんだし、断るなよ」 肩に置かれていた周の手がするりと落ちていき、俺の手へと触れ、それから周りに見せつけるように指を絡める。周が今度はその手にキスを落とすと、また女子の悲鳴が上がった。……叫びたいのは、俺なんだけど。何が、起きてる? 「……お前が犠牲者だって言うその女子の分も含めて、今日からたっぷり可愛がってやるな」 こんな展開、望んでなかった。最悪だ。やっぱり罰が当たった。周の不幸を願うんじゃなかった。平和な日々は、どうしたって訪れない。そう思って涙目になる俺に、周は唇へのキスでとどめを刺した。 END

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