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出来の悪い弟(3)
「じゃあ、これをここに代入すれば求めたいXが求められるってこと?」
「うん、そう。分かってるじゃん」
「じゃあ、次のこの問題も、これと同じような考え方?」
「だいぶ分かるようになったなお前」
「まぁね」
けれど困ったことに、最近は兄貴との勉強が嫌じゃなくなってきた。
ぎゃんぎゃんうるさかった兄貴の隣で勉強することを、心地良いなんて思うようになってしまったんだ。こんなこと、始めの頃からすれば絶対に有り得ないことなのに。
最初は親に頼まれ嫌々やっていた兄貴だけれど、思っていたのとは違った。面倒だろうに俺が分かるようになるまで何度も何度も丁寧に教えてくれた。そこまでされたら、俺だって頑張らないわけにはいかない。
何度も教えてもらっているのに、いつまでも分からないは通用しないし、そこまでしてもらったくせに理解できないままなのは、俺のプライドだって許さない。
そうして食らいついてやっているうちに、解ける問題が増えてきた。それが嬉しくて調子に乗る俺を兄貴はバカにすることもなく、ここまでこられたのは俺のおかげだと嫌みも言うことなく、良かったなと喜んで笑ってくれた。やればできるじゃないかって、くしゃりと笑って頭も撫でてくれた。
……散々バカにしていたくせに、何なんだよ。
出来の悪い弟と言って、冷たい目で俺のことを見ていたじゃあないか。
その時のことを思い返すと、バカな俺が悪かったけれどやっぱり腹立たしいし、悔しい。
それなのに兄貴は、毎日丁寧に教えてくれるし、俺のことを褒めてくれるのだ。昔より今のほうがいいに決まっている。
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