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出来の悪い弟(5)

それからしばらくの間、兄貴と勉強することはなかった。質問に行こうとして、分からない問題を見つけようと片っ端から問題集をあさったけれど、見つからなかった。一冊やり終えてしまっただけ。 全部解けるようになってしまったんだ。兄貴が丁寧に丁寧に教えてくれたから。問題を見ただけでこれが過去に解いたどの問題と類似していて、どのようにアプローチすればいいのか、全部分かってしまう。 ……質問、どうやったって見つからないじゃあないか。聞きたくてもどれも解けてしまうから、一体どの問題だったら聞いても不自然じゃないのかが分からない。 普通の兄弟の会話なんかしたことない。勉強でやっと関わりが持てたんだ。その時間が消えてしまったのだから、どうしようもないだろ。それまではただ出来の悪い弟と言って怒られていただけで、関わりと言えるものでもなかった。俺らの兄弟関係なんか、その程度。今さら、何を話せばいいのかさっぱりだ。 「あー……」 指で遊ばせていたシャーペンを壁に投げ飛ばし、机にうつ伏せになった。あんなに楽しくできるようになった勉強が、今じゃ全然楽しくない。 「……くそ」 たぶん、次に大きな問題を俺が起こすとしたらそれは、きっと兄貴のことを完全に兄貴として見られなくなった時だと思う。 この気持ちは勘違いでも何でもない。もうバカだった俺はいないのだ。何なのか、自分できちんと理解している。 俺は机に伏せていた顔を上げ、それから立ち上がり、隣の部屋にいる兄貴のところに行った。

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