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出来の悪い弟(6)
「ど、どうした?」
大きな音を立てて開いたドアに、兄貴は驚いて顔を上げた。
「出来の悪い弟のままが良かった」
一言、そう呟いて、俺は座っている兄貴の首に腕を回し抱きついた。初めて知った温もり。同じシャンプーに、同じ洗剤。それなのに自分とは何か違う優しい匂い。目頭がじわり、熱くなった。
「おいおい……、どうしたんだよ」
「出来の悪い弟のままが良かったんだ。そうしたら、きっと……」
兄貴を兄貴として見られなくなるなんて、そんな問題を起こす可能性だってなかったかもしれない。
「……全部兄貴のせいだ、」
行き場を失ったこの感情を、どうしたらいい?
どこにもぶつけられないこの俺の想いは、これからどうなる?
「なぁ兄貴……、分からない問題があるんだ」
昔に戻りたい。どうしたら戻ることができる?
頼むから俺を元に戻して。
“出来の悪い弟”
嫌いだったこの言葉が今では愛おしい。
だって出来が悪くても、兄貴の弟だろ?
ねぇ、兄貴。
この気持ちを伝えたら、俺は兄貴の何になる?
出来の悪い弟以下って何なんだろう。
「なぁ、何があったんだ……?」
問題が解ける度に頭を撫でてくれたその手で、兄貴が優しく俺を慰めてくれる。とんとんと叩かれた背中に、胸が苦しくなった。
「兄貴、」
我慢していた涙がこぼれ、兄貴の服に染みを作った。
END
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