82 / 230
特別な一日。(1)
騒がしい一日だった。いや、一日というわけでもないか。明日はバレンタインだと前日から騒いでいたし、騒がしかったのは昨日を含めて二日だ。靴箱もロッカーも机の中も、普段は汚くしている男子も珍しくきれいにしていたし、そんな男子を見て女子は「アンタにはやらないよ」って笑っていた。
バレンタインの今日は今日で、どう考えても本命だろって態度を示しながらも義理チョコだよと渡す女子もいて。見込みがないのに本命だと渡して気まずくなることを避けたかったのか、そこまでして好きな奴にチョコを受け取ってもらいたいのか、とチョコを貰う予定のない、バレンタインとは無関係の俺は、自分の席からその光景をじっと見ていた。
「はぁ、」
とにかくチョコが欲しい。たくさん貰えたら嬉しい。そんな感情が全くないかと言えば嘘になる。甘いものは好きだ。その中でもチョコは特に俺の好物。
けれど、こんなイベントごとはどうだっていいのだ。仮にチョコを貰ったとして、それが何になる? 自分の本命からならまだしも、どうとも思っていない女子から義理チョコだの何だのってチョコを押しつけられ、お返しを期待されるのなんか俺はごめんだね。
それに、チョコがたくさん貰えたことが、直接モテ度に繋がるわけでもない。
こんなことを言うと、ただの僻みだろと言われるけれど、それもどうだっていい。
俺にとってはバレンタインも、いつもの日常と何も変わらないだけだ。
ともだちにシェアしよう!