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特別な一日。(3)
「……はぁ、」
ありがたいけれど、複雑。自分の長所が一つも言えない俺のどこを、可愛くてモテモテな岩橋さんが好いてくれるのだろうか。それに、俺、実は片想いしている奴がいるからな。
手紙を箱の中に入れ、蓋を閉めた。教科書と一緒に鞄に詰め込む。そうして全てを片づけ終わった時、漫画みたいにチョコを抱えた水谷が戻ってきた。モテる奴は大変だな。隣のクラスまで行ってたのかよ。
「駒野、」
「なぁーに」
水谷の抱えているチョコの数に頬が引きつった。返事をする声に不機嫌さが覗く。だって、俺、コイツが好きだしね。義理チョコだろうが本命だろうが、たくさんチョコを貰えて喜んでいる水谷を見てちっともいい気はしない。コイツのことだから、丁寧にお返しするんだろうよ。ありがとうってニコニコしながらな。
「なぁ……、今日ってバレンタインじゃん?」
「言われなくても、お前が抱えているチョコを見たら、嫌でもそう思い知らされるわ」
「駒野。お前って、どうせチョコもらえないだろ? 可哀想だから俺がチョコやるよ」
大量に貰ってきたチョコを、ちょっと置かせてと言って俺の机に乗せた。チッと舌打ちしながら睨みつければ、自分の席から鞄を持ってきて、それも俺の机に置いた。ごそごそと中をあさった後、角がくしゃりとなった板チョコを差し出された。
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