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特別な一日。(4)
「いや、何?」
「何ってチョコだよ。お前って今年も貰えてないんだろう? それに何だかんだ言ったって、チョコ欲しいって本当は思ってるだろうなって」
いつもは大好きな水谷の笑顔が今日は死ぬほど憎い。好きな奴にモテなくて可哀想だねって、同情チョコを渡されるなんて。間違いなく一生の思い出になる。初めて貰えた本命チョコの上を、水谷への恨みが余裕で超えていく。何をヘラヘラと笑いながら俺にチョコを差し出してるんだ。
「水谷てめぇ……」
ふざけるのも大概にしろよと、そう続けようとした時、板チョコを押しつけてきたその手が、微かに震えているのが分かった。何? 緊張しているの? 水谷が、俺に同情で市販の板チョコを渡すのに? 好きな奴への告白じゃあるまいし、何をそんな……って、あれ?
緊張してチョコを押しつける理由が一つしか見当たらない。俺を怒らせるかもしれないからって緊張するくらいなら、最初からこんな発言はしないだろうし。何のつもりだと顔を上げ水谷を見つめると、ヘラヘラ笑っているのに、何だか泣きそうにも見える。何だこれ……。
「お前ってチョコ好きなのに、バレンタインじゃ一つも貰えないとか可哀想。だから俺がわざわざ買ってきたチョコをやるって言ってるんだ。さっさと受け取れバカ」
へぇ……。わざわざ俺のために買って来たのか。俺がチョコ好きだと知っていても普段は全くチョコをくれないお前が? わざわざ俺のために、可哀想だからって理由で? こうして震える手でチョコを押しつけてるのか。
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