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特別な一日。(6)

貰ったチョコが鞄に全て入り切らなくて手こずっているのか。それともまた、教室を出る直前にでも声をかけられたのか。靴を履き終わって数分経っても水谷が来ない。……ったく何をやっているんだか。一人で靴箱にいても暇だからと、俺はまたスリッパに履き替えた。一緒に帰らないという選択肢は頭にないから、何があったって先に帰るつもりはない。 「はぁ……」 ため息が漏れた。さっきの板チョコ、本当は欲しくてたまらなかったのに。試したせいで貰えなかった。後でどうにかして手に入れなければ。 そんなことを考えながら歩いていると数メートル先に水谷が見えた。名前を呼び、早くしろと叫ぶと、ごめん! と笑いながら俺に手を振った。その手にはまたチョコが握られている。考えていた通りだった。また捕まっていたのか。 それにしてもよく笑っていられるな。さっき俺がチョコ貰ったって言った時は、動揺していたくせに。もういつも通りの水谷に戻っているなんて、面白くない。バレンタインは俺に無関係だなんて、そんなことはなかった。水谷のせいで嫌でも巻き込まれている気がする。 「水谷、早く帰ろうぜ」 置いていくつもりはないくせに、置いていくぞと言葉を続ける。待ってと焦り始める水谷に、口元を緩ませた時、「駒野くん」と名前を呼ばれた。離れたところにいる水谷ばかりに気を取られていたせいで気づかなかった。いつの間にか俺の前には岩橋さんがいた。 「あのっ、チョコなんだけど……!」  「あ、あぁ。机に入っていたやつね。貰ったよ、ありがとう」 「良かった……」

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