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特別な一日。(8)

こんなふうに丁寧に気持ちを伝えられたら感謝せずにはいられない。とりあえずありがとうと伝え、恥ずかしさから俯いていた顔を上げると、岩橋さんの後ろには水谷がいた。……どこから聞かれていた? 水谷が二歩分くらい後ろに下がった。話が終わるまで待ってるわ、とそう目で伝えてくると、他の学年の靴箱の方から自分の靴箱へと回るようで、俺の視界から消えてしまった。 告白されて、ちょうどありがとうと伝えたところで消えられたから、水谷の頭の中では俺が岩橋さんと付き合うことをオッケーしたことになっているんだろうな。 ……最悪だ、と思ったのはほんの少しだけ。俺のことで落ち込んでしまえばいいと、心の中で笑ってしまった。勘違いして少しくらい泣いてしまえばいい。最悪なのはタイミングでも何でもなく、俺のこの心だけ。やっぱりバレンタインはいつもと変わらない日常なんかじゃない。いつもだったらこんなこと願わないもの。 「岩橋さん、告白ありがとうね。俺のことそんなふうに見てくれてたんだって驚いたし、感謝もしてるよ。けどね、俺、君が思ってるほど良い奴じゃないよ。それに、どうしようもないくらい、好きな奴がいるんだ」 「……やっぱり、無理かぁ。駒野くんのことね、好きで見てきたから分かるんだ」 「え?」 「今回はダメって分かってたのに告白したの。……だからね、最後まで聞いてくれて嬉しかった。ありがとう、」 岩橋さんが、くるりと回って俺に背を向けた。じゃあまた明日ねと明るく手を振り、教室へと戻っていく。分かるって何が? とは聞けないまま、岩橋さんの背中が見えなくなるまでずっと見ていた。  

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