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特別な一日。(9)
「よぉ、モテ男」
「……水谷に言われたくないな」
俺が待っていた靴箱で今度は、水谷が俺を待っていた。嫌みを呟くその素直じゃない口とは違って、表情はとても素直だった。ムスっとして目を合わせてくれない。そんな水谷が可愛いと、俺の中で確信に変わった気持ちが、余裕さを見せ、思わず笑ってしまった。それに、コイツにも先に帰る選択肢はないんだなぁと思うとまた、頬が緩む。
「何笑ってんだよ」
「いや、お前が面白くて」
「はぁ? 何だよそれ。……ってか、岩橋さんとどうなったの」
「……さぁ? どうなったんでしょう?」
俺はスリッパを脱ぎ、少しだけボロくなった靴を取った。足を入れ、とんとんとかかとを合わせてそれから、俺の返事が気に入らないと文句を言う水谷の頭を叩く。
痛いと叫ぶ水谷からはチョコの匂いがして。俺的にはその匂いが気に入らないんだけどね、とは言えないからもう一発だけ叩いた。
「オッケーしたのかよ」
「どうしてそう思う?」
「だって岩橋さん可愛いじゃん。それに駒野のこと、すっげぇちゃんと見てたし」
「え?」
「だからっ、駒野を好きな理由だよ。それを聞いてたら、オッケーするって思ってもおかしくないだろ。……お前ってあんまり他人にも自分にも興味ない感じ出してるし、俺以外とあんまり仲良くしてないけど、本当は色んなところ見て気遣える奴だし、俺、そういうとこいいなって思ってたし、でも、それ……、知ってるの俺だけなんだろうなって思ってたから、なんか、」
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