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特別な一日。(10)

もういい! と、水谷が俺の胸を叩いた。さっき俺が頭を叩いた分の仕返しだと強めに。それから早く帰るぞって今にも走り出しそうだったから、水谷の手を掴んで引き留めた。 「何してんだっ、離せ……!」 「だってその後が大切なんじゃないの? 途中で言うのやめて逃げるの?」 「え……っ、」 「俺の良さを知ってるのは自分だけだと思ってたのに違ったってことだろ? 岩橋さんも分かってくれてた。それを知って、お前はどう思ったんだ? なんか、の後に続く言葉は? それを言ったらお前がさっきから気にしてる、岩橋さんへの返事を教えてやるよ」 教室から誰か出てくるかもしれない。この会話を聞かれてしまうかもしれない。赤く染まった頬を隠しきれない水谷と、その手を掴む俺を、誰かに見られるかもしれない。 そんなことを考えなかったわけではないけれど、どうしても今この場で、水谷の気持ちを聞きたかった。 自分から言ってしまうのはもったいない。素直になれないこの口から、ちゃんと気持ちを言ってほしい。誤魔化さないで。最後まで聞かせてよ。 「何でそんなこと言わせるんだよ……。駒野、怖い。俺以外がお前の良さを知ってることに、俺がどう思ったかも、どうしてそう思うかも、全部分かってて聞いてるんだろ……? さっき、バカにしたから? どうせチョコ貰えないからってバカにして、安い板チョコ押しつけたから、それを怒ってるの? だからこうして意地悪なこと聞くわけ……?」 「もうそれは怒ってないし、意地悪しようってわけじゃない。分かってて言わせるんだ。そんなの、言ってほしいからに決まってるだろ」 「……え?」

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