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特別な一日。(12)
でも、わざわざ俺のために買ったんだろ? 年中売ってる安いその板チョコでも、箱が崩れてても、俺はお前からのチョコなら欲しいんだけどね。
「じゃあ水谷からは本命チョコ貰えないんだ?」
「……だからっ、受け取らなかった駒野が悪いんだろ」
「好きな奴に同情でやるって言われたチョコを、誰がありがとうって受け取ると思う?」
「そ、れは……」
「まぁいいや。今年は一つ貰えたし、別にお前から貰わなくたって」
「……っ、」
わざとそう言った。今度は意地悪のつもりで。水谷の表情が一気に沈むのが分かる。それでも何のフォローもせずに水谷の手を掴むのをやめ、一人で先に歩き出した。待てよ、と後ろから叫ばれるけれど、それにも何の反応を示さずに、校門のほうへと歩く。
俺に追いついた時何を言ってくれるのだろうと期待しながら、さっき目を閉じて俺からのキスを待っていた水谷を思い出して笑ってしまった。その時、頭に何かがぶつかって、それが地面に落ちていった。ズキズキする頭を押さえながら足下を見ると、水谷からの板チョコが落ちている。
「……はぁ、」
追いつかずに、そして手渡しでもなく、俺に向かって投げたのか。
箱はくしゃりと潰れたし、これじゃあチョコも割れてしまっただろうな。そう思いながらチョコを拾おうと手を伸ばすと、走ってきた水谷に体当たりされ、そのまま倒れた。少しだけ手をかすったんだけど。何なの。チョコもらうだけでこんなにたくさん痛い思いしなきゃならないの。
「……もっと普通に渡せないの?」
「貰えたんだからそれでいいじゃん」
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