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特別な一日。(15)

これで満足したか! と水谷が怒鳴った。言わせたのは自分なのに、いざ好きだと言われると、途端に恥ずかしくなって、さっきまで水谷を笑っていた余裕が少しもなくなった。今度は俺が顔を隠す番。 そして俺が散々苛めた分、水谷は返してくるんだろうなぁと構えたけれど、水谷も照れた俺に戸惑った様子でそんな余裕がないように見える。……くそ、どこまで可愛いんだ。  「だからさぁ、水谷も十分ズルいだろ」  「意味分かんねぇ……」 「俺もお前が可愛すぎて意味分かんねぇよ」 「……俺は可愛いよりも、かっこいい派だと思うんだけど」 「俺が言ってるのは顔じゃない」 お前はバカなのか? と問うと、顔じゃなかったらどこだよと、中身だとしか答えられないバカな質問で返された。こんなやり取りをいつまで続ける気なのか。お互いに照れてる場合じゃない。もういいよ、帰ろうって水谷の手を引いた時、ぽつんと手に雨を感じた。驚いて顔を上げれば、ずっと晴れていたはずの空を灰色の雲が覆っている。 「まじで雨降るんじゃ?」 「赤い雨じゃないだけマシだろ」 「マシじゃねぇよ。傘持って来てないから濡れるだろ。……ったく、お前がチョコなんか貰うからだ」 「……お前からも貰ったけど?」 「だからそれはっ、……黙れ!」 怒った水谷が、先に走り出した。置いて行かれないように慌てて後を追う。ぽつりぽつりだった雨が、少しずつ強くなってきた。

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