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特別な一日。(16)
「なぁ、水谷……!」
追いついたその背中を叩き、横に並んだ。思ったよりも強く降り出した雨に、髪の毛も制服もぐっしょりと濡れている。
「はぁっ、何?」
息を切らし、俺の方を見る水谷に一言。
「好き」
そう囁いて、水谷を追い抜いた。チョコという荷物の少ない俺の方が、雨の中で水谷より軽やかに走ることが出来る。パシャリと、水たまりを踏んだ。
「っ、今、走りながら言うことじゃないだろ!」
追いつかれないようにと速く走った。水谷の顔を見たかったけれど、好きだと言った俺のほうが赤い顔をしていると思うから。それを見られたくなくて。
「駒野、待てって」
「やーだ」
「駒野っ、」
水谷が後ろから、俺の名前を呼ぶ。靴の中まで水が染み込み、少しずつ足音が重くなってきた。水谷の声と、その足音を聞きながら、また走るスピードを上げる。
待つ気配がこれっぽっちもない俺が気に入らないのか、追いついてやると水谷もスピードを上げたのが分かった。
「何で、そんなに、速いんだよ……!」
「お前より、荷物が、少ないし」
「でも、二つ、あるじゃん、」
「一つは、板チョコ、だから」
「はぁっ……?」
「すっげぇ軽いわ」
「ふざけんな!」
今年のバレンタインがこんなにも楽しいなら、来年もきっと楽しいバレンタインになりそうだと、俺は目の前の水たまりを大きく飛び越えた。
END
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