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チョコの代わりに、涙味のキス。(1)

最近、陽が落ちるのが少し遅くなったように思う。放課後の帰り道が明るくなった。隣を歩く泉の表情がよく見える。 「泉、どうかした?」 「いや、」 ……ソワソワしている、かと思ったら、きゅっと口を結んで。何か怒ってるのかな? と気にしていると、今度は眉間にシワを寄せて唸った。 何やら忙しそうだ。まぁ、今日はバレンタインだったから、何か思うことがあったのかも。 そうして泉が俺に意識を向けていないのをいいことに、少しだけ近づき、影を重ねた。手、繋ぎたいなって、何となくそう思ったから。直接は無理だけれど、これならバレないだろうし、少しは同じ気分が味わえるかも……ってそんなことはあり得ないのに。そうしたところで、泉の温もりを感じることはできるわけじゃない。それでもそうしてしまうのは、バレンタインの今日、少しだけ浮かれているからなのかもしれない。   「そういえば泉は、チョコを何個貰えたんだ?」 しばらくしても、泉は俺のほうを見てくれないから、影で遊ぶのをやめて話しかけた。いつもはお喋りの絶えないこの帰り道なのに、何も話をしないのは少し、ううん、かなり寂しい。今日は特に、泉は女子に囲まれていて、教室ではあまり一緒にいられなかったから。独占できるこの帰り道くらい、二人で何でもいいから話をしたい。

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