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チョコの代わりに、涙味のキス。(2)

「……それで、何個貰ったんだよ」 何も言わず俺のほうを見た泉を、そう言って肘でつついた。そして、どうしてさっきから黙ってるんだと、そう考えたら急に怖くなった。泉が口を開いたら、そこから嫌な言葉が出てきそうで。だって、そうだろ? いつもの楽しい帰り道で無言なのも、何か考え込んでいるのも。そして今日がバレンタインで、泉は本命を貰っているだろうってことも。 「栄介よりは多い」 「そりゃそうだろ。それは分かってて聞いてる」 「……十個」 「うわー! 俺の三倍もあるし」 コツンと、目の前に会った小石を蹴った。わざとらしく明るくそう答え、泉のほうを見ることなく、少しだけ飛んでいったその石を目で追う。小走りで追いつき、またその石を蹴った。背中に視線を感じる。一息ついて、呼吸を落ち着かせ、泉の方を振り返った。 ……ねぇ、その中に本命はいくつあって、それで泉は誰かのその本命チョコを、“そういう意味”で受け取った? 「お返しが大変だな。痛い出費だぞ」 それを考えると、少ないほうがいいだろ? って、手に持っていた鞄を軽く振り回しながらそう言った。気になっていることを言葉にはせず、飲み込んで。 「……なぁ、栄介」 「なに?」 泉が、小石を蹴った。けっこう離れていたのに俺のところまで飛んできて、靴に当たって止まった。その石を踏んで、先の方でコロコロ転がす。名前を呼んで黙った泉も、石みたいに俺のところにやって来て、目の前で止まった。

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