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チョコの代わりに、涙味のキス。(3)

「栄介、」 「な、に?」 一歩下がって、それから泉に背を向けた。さっきまで自分が蹴っていた石をまた、遠くに飛ばす。それを追いかけようと踏み出した時、泉に腕を掴まれた。 何か、言われる。嫌な、何かを。それできっと、こうして一緒に帰るのは、今日が最後になるんだ。 引っ張られて振り向かされた瞬間、泉の顔が見えないように目を閉じた。そして泉の声が耳に入らないように、「あーうー」と、意味のない言葉をひたすら声に出す。何も見たくないし、聞きたくもない。 「ばーか」 「……んむ!」 それなのに、驚いて目を開けてしまった。声も詰まる。泉が俺の鼻を摘まんだから。冷えた鼻先を強く摘ままれるのは痛い。涙目になりながらやめるように言うと、泉はくすくすと笑った。俺は泉のせいで不安になっているっていうのに、泉は俺の気持ちなんか知りもしないで、一人だけ楽しんでいる。さっきまで考え込んでいたくせに、どうしてこんなことをして笑っていられるんだ。 「なぁ」 「何……?」 「お前は俺に、チョコくれないの?」 やっと鼻が解放された。思いっきり空気を吸い込んで今度は別な痛みがやってくる。でもそんなことを気にしていられないくらいの言葉を泉に言われて。俺はもう何がなんだか分からなくなってきた。 考え込んで、吹っ切れて。そして、俺に、チョコくれないの? だなんて。

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