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チョコの代わりに涙味のキス。(5)

ただ握られていただけだったのに、繋ぎ直されて指を絡められた。強く絡められた指先が、震える。でも俺だけじゃなくて、泉の手も震えていて。何だか大声を出して泣きたくなった。 好きだという気持ちを、泉がこうして口に出すまで何を思っていたのかは分からない。それでもその言葉を真っ直ぐにぶつけられたら、不安でビクビクしていた自分が情けないと思わされるし、でもそれ以上にそんなこと言ってもらえて嬉しいって気持ちが大きいし、それに泉のことこれからもずっと好きでいていいんだなぁって安心するしで、頭も心も全部忙しい。 「何だよ、それ……」 「栄介、好きだよ」 「う、……俺、チョコ持ってないよ」 「じゃあ、代わりに何かちょうだい」 微笑んだ泉の手を、強く握り返した。それにまた口を緩める泉に、自分から距離を縮めた。最後に周りに誰もいないことを確認して、それから思いっきり抱きついた。影が一つになって、泉の温もりが大きくなる。ここまで近くに感じられたのは初めてで、俺は、泉の腕の中で思いっきり泣いた。 「……泉、」 「ん」 「チョコの代わり、あげる……」 しばらくして、泣きやんで。俺は涙でぐちゃぐちゃな顔のまま、背伸びして泉にキスをした。キスはレモン味だなんて嘘だったね、と泉は笑った。 END

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