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同じ気持ち(1)

朝、誰よりも早く学校に行って、大好きな彼の机の中にチョコを入れてしまおうと思っていた。僕は男で彼も男で、バレンタインのこの日に、チョコを渡すのはおかしいとそう思ったから。僕と彼は言葉を交わすこともあまりなくて、「友チョコ」との言い訳もできない。 こっそり練習して作った手作りのチョコを大切に鞄に入れて、行ってきますと家を飛び出した。走るのは得意ではないけれど、とにかく早く学校に着くようにと。冷たい空気が頬をさす。耳も、痛い。それでも、どうしても今日この日に彼にチョコを渡したいのだ。誰からか分からないチョコを、食べてはくれないかもしれないけれど。 「はぁっ、」 靴箱に靴を適当に入れた。スリッパを履かずに手に持ったまま教室までの階段を駆け上がる。履いてる時間ももったいないと思った。床の冷たさが足に突き刺さって、少しだけ泣きそうになった。 教室の前に来て一呼吸着くと、そっとスリッパを置き、ゆっくり足を入れた。廊下はしんとしていて、絶対に一番乗りだとそう確信する。いつも遅刻ギリギリなのに、今日はこんなにも早い。彼のためなら、朝、目覚ましが鳴ってすぐに布団から出ることも苦じゃなかった。 「ふふっ、」 見た目はそんなにキレイじゃないけれど、でも気持ちはこもってるもんね。 僕は鞄からチョコを取り出し、廊下側一番後ろの彼の机の中にチョコを入れようと、後ろの教室のドアを開けた。 「えっ、」 「……あ!」

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