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嘘? 本当?(8)
「あー、見られちゃったか」
「え、何? 俺が見ちゃいけなかったの?」
中身を確認しなくとも箱を見ただけで分かる。これはケーキの箱だ。でもどうして、それを俺に隠したかったんだろう。
「……っ、」
お祝いする相手を、知られたくなかったってこと? ……それって、つまり、実はそういう人がいるってこと……?
「黒沢、これ、誕生日ケーキ……だよな?」
だって、今日はクリスマスみたいにホールケーキを買うようなイベントごとはない。エイプリルフールだからってホールのケーキを買いました、なんて話も聞いたことはない。だったらもう、これは誕生日ケーキとしか考えられないだろ。
「うん。誕生日ケーキなんだけど、今は見られたくなかったなぁ」
「意味が分からないよ……」
今は、って何? じゃあ後で俺に見せるつもりだったってこと? それは、ますます謎じゃあないか。俺に見せる必要性は? だって、俺の誕生日は……。
「矢田の誕生日って二週間前だったじゃん」
「……え?」
「ちょうど帰省する日だったからさ、おめでとうのメールだけしただろ?」
「うん……、」
パタンと、黒沢が冷蔵庫を閉めた。結局飲み物は取り出せていないんだけど、と今は重要でないそんなことをぼんやりと考えた。
「でもやっぱりお祝いしてあげたいなぁって思ってさ。お前は帰省しなかったし、どうせ誕生日を一人で過ごしただろ? だってほら、彼女もいないし、俺がお前の中での一番じゃん? ……って、そうじゃなきゃ困るんだけどね」
黒沢が、照れたように鼻をかく。
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