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嘘? 本当?(10)

……あぁ、やっぱり。 「俺、黒沢のこと、好きだなぁ……」 「それ、本当?」 「……え、あっ、! 嘘、ちがっ」   「嘘なの?」 ぽろりと、本音が漏れた。何となく甘いこの空気に、酔ってしまったのかもしれない。いつもの俺だったら、こんなヘマは絶対にしないのに。今までずっと押し込めて来たこの気持ちを、今このタイミングで、どうして。 「好き、だけど、そういう……変な意味じゃないよっ、」   黒沢の手は、変わらず俺の頬に触れている。やめて欲しくて顔を顔を逸らそうとするけれど、黒沢がそれを許してくれない。包み込んだまま、真っ直ぐに俺を見つめている。    「エイプリルフールだけど、嘘ついていいのは午前中までって、俺そう言ったよな」 「嘘、じゃな、い」   「ほら。また、嘘ついた。矢田は顔に出るから、考えてることが分かるんだよ。俺のこと、好きでしょ?」 「やだ、今日……おかしい、」 「ちゃんと、俺のほうを見て」 「いやだ、」 だいたい、男同士なのに好きだと言われて、それをどうしてすぐ恋愛感情の方に結び付けられるんだ。俺は自分が黒沢に対してその感情を持っているから、慌てて“そういう変な意味じゃない”と否定したけれど。 黒沢は俺と違うのだから、“そんなこと分かってるよ”って言うべきじゃないのか。それなのに“変な意味じゃない”ってその言葉が、嘘だと黒沢は言う。……おかしいよ。だって普通は、変な意味を望まないだろうに。

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