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愛……?(4)
「なぁ辻、それはもう愛なんじゃあないの?」
「……いいや、これは愛じゃあないよ」
「俺には言えない? そういうことなの?」
「違うよ。三浦に言えないからこう答えているわけじゃあないよ。本当に、違うんだ……」
そう言って辻は、少し俯いて残りのおかずを食べ始めた。その睫毛が震えているのを見て、何だか胸が痛くなった。
◇
「ただいま~! 疲れた! 辻は?」
委員会からヘロヘロに戻ってきた太田は、席に着く前に辻の名を口にした。お前の頭の中には辻しかいないのかと言おうと思ってやめた。またいつものようにへらへら笑いながら「うんそうだよ~」って俺がどうとも言えないように答えられて終わるんだろう。
「俺におかえりも言わせない気かよ。辻はちょうど今トイレに行ったぜ」
「えぇ~じゃあ俺もトイレ~」
「いいや、お前はトイレには行かせない。ちょっと俺と話そう」
腕を掴み無理矢理座らせると、辻~! とだだっ子のように手足をバタバタさせた。そんな太田の頭を一発殴ってやった。手のかかる大型犬だ。まだ本物の犬の方が頭がいいんじゃあないのか。
「なぁ太田さんよ」
「なぁんだよ。さん付けとかきも~い」
「うっせぇばか! きもいとか言うな。今俺は大事な話をしようと……! 辻のことで、卵焼き、だから……」
こっちは真面目な話をしようとしているのに、太田ときたらそんな俺の気持ちはまるで無視しているかのように笑っている。
かと思ったら急に真顔になった。
「……知ってるよ。全部知っててやっているんだ。辻の気持ちも全部知ってて、今みたいにやってる。タイミング、ちゃんと待ってる」
「え」
「お前には心配かけたみたいだけどなぁ~。ちゃんと決まったら伝えるぜ」
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