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見つめたその先に。(6)

類くんの頭に触れていた手を下へと滑らせ、シャツの中に手を入れた。びくりと類くんの肩が跳ねる。神井くんはやっと僕から目線を逸らし、類くんの首筋に顔を埋めた。 シャツがゆっくりと上げられていき、類くんの細い腰が見える。とても気持ちよさそうな顔をしている彼は、ゆっくり腰を動かし始めた。そして神井くんが何か耳元で囁くと、小さくこくりと頷いて、ズボンの前のボタンを外した。 「……っ、」 ここまでくれば、僕にも今から何が始まるのか分かる。乾いた唇を噛みしめた時、また、神井くんと目が合った。“いつまで見てるの?”と、そんな目をしている。僕にはどうすることもできなくて、へたりとその場に座り込んでしまった。 「うぁ……」 見えていないのに、頭の中には二人がいる。優しく類くんに触れる神井くんと、信頼しているふうに全てを任せる類くん。二人の間の柔らかい空気。甘い吐息に、お互いの名前を呼ぶ掠れた声。 「……ど、しよ……」 僕は、廊下を這うようにして靴箱へと急いだ。課題のことなんか考えている余裕はなかった。自分の目で見た光景と妄想とで頭が混乱してきて、そして、何より興奮してしまった自身にひどく動揺した。堪えることができなくて、靴箱までたどり着くと思いっきり声を上げて泣いた。 ふらふらした足取りで家に帰ると、ご飯はいらないと言って部屋にこもった。もこもこして気分が悪かったセーターを、伸びるかもしれないと気にすることなく雑に脱いで、相変わらず泣いてぐちゃぐちゃのまま、反応している自身に触れた。 怖い。二人を見て嫌悪感を抱くこともなく、こうして自身に触れている自分が。 「ほし、の、く……んっ、」 ……でも一番怖いのは、ここで彼の名前を呼んでしまう自分だ。 怖くて、どうしようもなくて、僕にはただ、泣きながらこれが夢であってほしいと願うことしかできなかった。

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