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見つめたその先に。(12)
「星野、お前失礼なこと言うなよ。仲良いとかの話の前に同じクラスなんだから、お昼一緒に食べるくらい普通だろ? なぁ、沢田」
「……え、あ、うん……?」
「なぁんで疑問系なんだよ。そこははっきり答えるところだろ」
そう言う類くんにぐりぐりと頭を寄せられ、僕は思わず笑ってしまった。数週間前に類くんとあの話をしてから、神井くんはともかく、類くんとはたまに話をしていた。それ以外は特に何も変わらないのに、類くんは本当にすごいや。ずっと前からの友人みたいにこうして僕に触れるんだもの。
「沢田、何笑ってんの? 失礼じゃん」
「だって、類くんが……、ふふっ、」
「俺が何だよ。……まぁいいや。そういうことで沢田は俺らがいるし、星野は何も気にしないでいいぜ」
そろそろ授業が始まるから席に戻れよって、類くんが彼の背中を叩いた。そうだなと頷き、彼が席に向かうと、類くんが僕の耳元で囁いた。
「星野って本当に無表情だよな。何を考えてるか全然分かんねぇ」
「え?」
「じゃあ昼休みにな」
聞き返した僕の言葉には特に返事もなく、二人の関係を知らない周りのクラスメイトからすれば友人同士でじゃれあっているだけに見えるやり取りをしながら、類くんと神井くんも席に戻った。
星野くんは僕を心配しているような顔をしていたし、無表情なんかじゃあないのに。やっぱり僕にしか分からないのか、それとも、僕がそう思い込んでいるだけなのだろうか。
ふと、彼に目線を向けた。いつものように一方的なものを。けれど、今日はいつもとは違って、彼も僕の方を見ていた。
「……え、」
目が合うことなんてほとんどないのに。それなのに、視線がぶつかったことよりも、彼の表情の方が気になってしまい、僕はとても不安になった。……どうしてそんな、泣きそうな顔をしているの?
「星野くん……」
小さく呟いた名前はチャイムにかき消され、彼のその表情がいつまでも頭から離れなかった。
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