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明日からまた。(5)

そもそも、仕事の先輩と思わずして何と思えばいいのか。まさか兄貴と思え、とか? 年齢差も大してないし、それはあり得そうだ。 「……すごい発想ですね」 頬をひきつらせながら、つくり笑いをする事もなくそのままそう言った。褒めている意味での「すごい」ではないと、本人に分かるように。 「だろ~? 仕事の関係じゃあなくなればいい話で、例えば友人とか、……恋人とかいいなぁ」 それなのに本人はそんな俺に構わず呑気な顔をしてとんでもない爆弾発言をした。兄貴よりも友人ならまだ……と聞いていたら、最後に何て言った? 俺と先輩が……恋人になるだと……? 「保坂さん、頭がおかしいんじゃあないですか? 百歩譲って友人は理解できるとして、貴方と俺が恋人とか全くもって理解出来ないし、理解したくもないです!」 「そうかな? でも今お前、彼女いないんだろ?」 「いないことが関係ありますか? 何その恋人でもいけるんじゃあないか的な雰囲気は。俺、嫌ですよ」 膝に広げていたお弁当をベンチの上に置いて蓋をした。保坂さんがまだ持ったままだった俺の箸も取り上げ、箸箱に戻す。この状況でお昼を楽しめるものか。バカな発言に付き合っていられないぞと睨みつければ、さっきまで呑気な顔は消えていた。……何だよ、怖いじゃあないか。 「俺は願ったり叶ったりだけどなぁ」 「……はい?」 願ったり叶ったり? ますます何を言っているんだ……? 「なぁ、宮澤。お前、過去に恋愛経験は?」 「そ、それは、一応俺ももうすぐ三十路ですし、少しはありますよ」 「キスの時、眼鏡が邪魔だってことはなかった? 俺、眼鏡っ子と付き合ったことなくてさぁ」

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