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明日からまた。(6)
保坂さんが見を乗りだした。俺の顔をのぞき込むと、長い指で俺の眼鏡の縁に触れる。触られたのは眼鏡なのに、直接触れられていない肌に違和を感じた。直感的に逃げられないと頭に警告が鳴り、俺は体を後ろに反らす。
「べ、別に、邪魔だと思ったことは……って、何でそんなこと……、き、気にするんですか、」
びくつく俺に対して保坂さんはするりと背に手を回すと、逃がさないとでも言うかのようにぐっと自分の方へと引き寄せた。ほんのり香る甘い香水に、頭がクラクラした。仕事でもこんな至近距離にいたことはないのに、どうして公園のベンチで保坂さんとこんなことに……。
「へぇ、邪魔にならないんだ? じゃあこのままでいいかな」
「えっ、……んっ、!」
はむり、と上唇に噛みつかれた。そのまま唇全体を合わせられ、抵抗しようとバタつきもがく。けれど、それがいけなかったのだろう。俺を大人しくさせようと、舌を入れられた。カシャンと眼鏡が騒ぐ。でもそれ以上に俺の心臓がうるさく叫んだ。
「やっぱりちょっと邪魔じゃん。眼鏡取ろっか」
しばらく抵抗もできずに遊ばれて、やっと終わったと思えば、ちろりと舌を見せいやらしく笑った保坂さんに眼鏡を奪われた。
「やめっ、見えな……」
「これだけ近づいてるんだから、俺の顔は見えてるんだろ?だったら問題ない」
「……ふっ、はぁ、」
終わったと思っていたキスがまた再開される。眼鏡を奪われて視界がぼやけているのに、保坂さんの顔だけははっきり見えるのが憎い。見なければいい話ではあるが、目を瞑るのは負けているような気がしてそれもできない。キスを拒否することも力では敵わず、俺は保坂さんの思うがままにされてしまっている。
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