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明日からまた。(9)
保坂さんとお昼を過ごすようになってもう一ヶ月だ。被害者面をしているけれど、来てしまう俺も悪い。元々一人で過ごしていた場所に踏み込まれ、それだけでなく俺の中に踏み込もうとまでされて、意地になっていた部分もあるけれど、それでも嫌々言いながら結局一緒にお弁当を食べている自分にも非がある。全て保坂さんが悪いわけではない。
そして、保坂さんの俺を口説こうとしてくる謎の言動が、本当に単純に考えたあの答えで間違いないのかも確かめる必要があると思った。保坂さんは社内でも取引先の会社でも人気のある人で、そのくらい魅力的な彼が俺を好きだというのも何かおかしい。
「あ、宮澤 。保坂靖之 と弁当を食べる、という状況は同じでも、それが仕事の先輩の保坂靖之なのか、恋人の保坂靖之なのかで、お前の心の持ちようは変わるぞ」
「……はぁ。仕事の先輩である保坂さんとお昼を共に過ごすことにもう慣れました。恋人になっていただかなくて結構です。その話さえなければ、貴方とも楽しくいられる気がするのですがね」
「え~。この俺だよ? かっこいいし、声だっていいし、仕事も出来るだろう? 断るの? それに……」
「それに……? 何です?」
「キスもうまいしな」
「……っ!」
保坂さんのせいで一ヶ月前にキスをされたことを思い出してしまった。あまりにも恥ずかしくて忘れたかったあの事実を。
食べたばかりの焼きそばがつっかえ、思いっきりむせた。キスの恥ずかしさに加え、動揺しているとバレてしまった恥ずかしさもあり、どこかに隠れたい気分だ。最悪すぎる。
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