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明日からまた。(10)

「ははっ、思い出して恥ずかしくなった?」 「そりゃあ……、だって、あれは、」 「思い出して、恥ずかしいか……。良い反応だね」 俺を見ることなく、保坂さんはそう言うと頬を緩ませた。その緩んだ頬を隠すようにしてお弁当の具を詰め込んでいるけれど、俺の目は誤魔化せない。何がそんなに面白いって言うんだ。 「からかわないでくださいよ」 「からかってないよ。恥ずかしいが先に出てくるなんて、俺は素直に嬉しい」 保坂さんが嬉しがる理由はさっぱりだし、これがからかっているのでなければ何だと言うのか。幸せそうにお弁当を食べる保坂さんを睨みつけながら俺は、明日からしばらくこの公園には来ないと決めた。 ◇ 「どこで食べた?」 「……言いません」 「はぁ、」 保坂さんと別々に昼食を取るようになってから一週間が経った。初めて違う場所で食べた日はしつこく問いただされたし、目に見えていじけた様子だったけれど、それが一週間も続くと、もう俺が一緒にいたくないと伝わったのだろう、一応場所の質問はしてくるものの俺が答えないければそれ以上聞いてくることはなくなった。 正直に言えば、俺の後をつけてきて、結局どこで食べようとも隣に保坂さんがいるのだと思っていた。勝手な考えかもしれないが、彼ならそれくらいやってのけそうだとそう感じて。 俺がお昼に出る時に保坂さんが席を外していたり、同僚に呼び止められたり、電話を取り次がれたりは、今まで当たり前にあったことなのに、俺の行き先が公園ではないから、すぐに追いかけないと居場所が分からないのは納得できる。それでも、どこに行ったか知らないかと同僚にでも聞くことはできるし、もう少しくらい焦ればいいのにと思うけれどそうならないから何だか面白くない。 その上、一週間経った今はもう、あまり興味すら持たれていないようだ。このままあと一週間もすれば、今日はどこで食べたのかと質問してくることも無くなりそう。

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