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第2話 行動開始

T大に入る。 そう決めたものの、譲がT大について知っている事といえば、この国で一番の最高学府であるということだけだ。 譲は小学校の授業で受けたテストの結果を机の上に広げ、ため息をついた。 「このままじゃ駄目だ。たぶん・・・・・・」 五教科分のテストの点数は、合計で250点を少し超えるくらいである。 だが、それがどのくらい駄目なのか譲には分からない。 「明日先生に聞いてみよう」 敵を倒すにはまず敵を知ることだ。 譲はT大に入るためにはどうすれば良いのかを担任にたずねる事にした。 「T大・・・・・・。斉木君が?」 告白をした次の日の放課後、譲は今まであまり足を運ぶことの無かった職員室へ訪れていた。 「うん」 「難しいんじゃないかなぁ・・・・・・」 譲が通う4年2組の歳若い担任教師は、頭をかきながら至極常識的な答えを返す。 「どれくらい難しいですか」 「う~ん。とりあえず今学校で習っている事だけでは足りないね」 「テストで100点取っても駄目ですか?」 「駄目だね」 目を覚ませ。 そう言うかのように真っ直ぐに目を合わせ告げられた担任の言葉に、譲は落胆する。 だが、一度伏せられた目は再び強い意思を持って開かれた。 「どうすれば良いですか」 あきらめる様子の無い譲に担任は少しの間思案するように腕を組んでいたが、やはり良い案は浮かばなかったようで、ため息混じりに顔を左右に振る。 「やる気になってくれたのは嬉しいけど、先生にはT大に入れるような勉強の仕方は教えられないし・・・・・・。」 担任は残念そうに譲るを見やり、とりあえず一つの無難な提案をした。 「塾にでも行ってみたらどうかな」 家へと帰った譲は、早速充の仕事部屋へと向かう。 「父さん、話があるんだ!」 「は、はなし?」 昨日の事もあり、充は譲がまた何か変なことを言い出すのではないかと、動揺を含んだ声で譲の言葉を反復した。 「うん!僕ね、塾に行きたいんだ!」 期待を込めた眼差しを向ける譲に対して、充は表情を歪める。 昨日の話をまだあきらめていない事に落胆すると共に、譲が実際に行動し始めた事に幾分危機感を感じていた。 「小学生の内から塾なんて行かなくていいから、もっと友達と遊びなよ」 「でも、先生が今の勉強じゃT大には入れないって・・・・・・」 やはり昨日の話の影響か。 充は譲に余計な事を吹き込んだ担任教師を恨んだ。 「塾に行かなきゃ入れないくらいなら、T大なんてあきらめなさい」 「だって、それじゃあ・・・・・・」 言葉尻をすぼませ、うなだれる譲が少し可哀想になり、充はできるだけ穏やかに話を変えようと試みた。 「おやつにケーキがあるんだ、一緒に食べないか」 譲は顔を上げ充と視線を合わせた。 その眦に、今にも溢れそうな涙が溜まっている。 「・・・・・・いらないっ」 譲はきびすを返すと充の部屋を走り出た。 そのまま家を飛び出した譲は、行く当てもなく町をさまよう。 父さんは僕をT大に行かせたくないんだ。 それは、僕と恋人になりたくないからで。 でも、僕は・・・・・・。 さまざまな感情が入り混じり、周りの景色など視界に入れる余裕の無かった譲が、ある建物の前で足を留めた。

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