2 / 5

第2話

 結局、昼休みを過ぎ、放課後になってもケイジは教室には戻らなかった。  帰ろうと廊下を歩いていると、向こうからケイジ来た。その手には、汚れたユウの靴があった。今の今までユウの靴を探していたとでもいうのだろうか。 (……そんなことしないでよ。ボクと関わらないでほしいのに)  ユウは心の中で毒づいた。ユウはケイジに近づくと表情を繕った。 「もしかして、ボクの靴をずっと探してくれてたの?」 「別に。授業がダルかっただけだ」  ぶっきらぼうに渡された靴は綺麗に拭かれた跡があった。 「ありがとう」  ユウは精一杯の笑顔で受け取った。ケイジが食い入るようにユウの顔を見るので、気まずくなって目を逸らした。 「でも、ボクのことはもう、そっとしておいてほしい。自分の力で乗り越えたいし」  できる限り言葉を包んで、関わらないでほしいと伝えたつもりだった。しかし、ケイジはぼんやりとこちらを見て、一言言った。 「……天使」 「は?」 「べ、別に。じゃあな」 (……今、天使って言ったよね、絶対)  大股で去っていくケイジの赤くなった耳を見ると、非常に嫌な予感がした。   ふと、手にしていた革靴に何か入っている事に気づいた。  ゴミかと思ったが、靴の中に入っていたのは、四つ折りにされたメモだった。 『困った事があったら、連絡しろ』  恐らくケイジが書いたであろうその文字は思いの外達筆で、携帯番号も一緒に添えられていた。  ユウはそのメモを握りつぶした。 (ボクが欲しいのは、優秀なアルファ。ベータの高校に通うような落ちこぼれは必要ない) 「あ。りっくん……」  ふと、窓の外を見ると、幼馴染の野山陸が楽しそうに恋人と帰っていた。  彼を見ると、なぜか心が痛くなる。 (彼もベータだし、僕の人生には必要ない)  心の中でそう言い聞かせ、ユウは一人で下校した。

ともだちにシェアしよう!