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第3話

 夢と現実の狭間で、自分を呼びかける声が聞こえた。  ユウが目を開くと薄暗い部屋に自分を覗き込む影。  どうやら、今は夜らしい。昼夜が分からないほど、ユウの記憶が混濁していた。  それと同時にどうしようもなく体が熱く、重たかった。 (これが抑制剤を使わない発情期か)  本来のオメガの呪縛。 「おい、大丈夫か?」 (……りっくん?)  しかしそこにいたのは、陸ではなくケイジだった。神妙な顔でユウを覗き込んでいる。床に倒れこんだユウを片腕で支えていた。 「どうして君が?」 「覚えてないのかよ。ご丁寧に住所まで留守電に吹き込んでおいてよ」  全く覚えていない。  ユウが首を横に振ると、ケイジは明らかに不機嫌な表情になった。 「誰にやられたんだ」  ケイジに聞かれてユウは自分の姿を見下ろした。ボタンが全て弾け飛んだパジャマ姿。胸には引っ掻かれたような跡があった。  自分の身体を見た瞬間、ユウは全てを思い出した。 (ボク……、りっくんに拒絶されたんだ……)  抑制剤を飲み忘れたユウは、陸に助けを求めた。正直言って抱いてほしかった。しかし陸は直前になって雄叫びを上げて、無理矢理正気に戻ると、そのまま逃げ出していったのだ。  その後の記憶はあやふやだったが、おそらくケイジを頼って連絡したのだろう。  その証拠に手にはしっかりとケイジに渡されたメモが握られている。 (よりによって、落ちこぼれのアルファに助けを求めるなんて) 「君には関係ないよ」  ユウのつれない言葉にケイジは舌打ちしたが、それ以上の追及はなかった。代わりに現状を打破するための現実的な質問をしてきた。 「薬はあるのか?」  ユウは質問には答えず、そっぽを向いた。 「おい、聞いてんのか!」 「ねえ、どうして来たの?」 「呼んだのは、お前だろ」 「ボクを抱きに来たの?」 「あぁ?」  ケイジの不機嫌な声は苛立ちに変わった。 「抱きたきゃ抱けばいいよ。どうせ君だって、最後は逃げるんでしょ」  ……どうして、陸は逃げたのだろう。  番の関係は、恋人よりも夫婦よりも深いのに。 (どうして、ボクはりっくんの番になれないの?)  ユウは、ケイジの腕に抱かれながら陸を想った。

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