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第3話

そろそろ僕の発情期が来る。 手帳に詳細に示されたそれを見て、 抑制剤を飲む。僕は数日前から飲まないと 危険分子を含むΩだからだった。 僕――杉本(みやび)はこれまでの人生、 そんな大きな事件にも巻き込まれることなく、 平凡な人生を歩んでいる。 初恋すらまだな、大学1年生だ。 見た目も小柄だが、チョーカーさえなければ、 Ωだとはバレない程度の背丈はある。 と言っても170cmに少し足りないくらいだ。 大概のαは180cm以上の身長があるから、 それに比べたら確かに小柄だが。 色素の薄い髪と眸をしてる所為で、 ハーフと間違えられることも多いが、 生粋の日本人だ。αの父や兄は逆に 黒々しいほどの黒髪に黒目をしている。 母の色素も別に薄くは無いので、 僕は突然変異のΩのようだ。 そのおかげで、中高の頭髪検査では必ず 引っかかっていたが、地毛だ、という 書類を毎年提出させられていた。 茶色い髪に淡い茶色の眸…… カラコンを入れてるような大きな眸も 知らない人からすると、注意の対象に なってしまう。 男性やαから見ると『可愛い』系らしいが、 女性に言わせると『普通』の男子だった。 アシンメトリーな髪型以外は特に何も いじってはいない。サラサラすぎて 女子に手入れを聞かれるほどだが、 何もしていない。 大学でもβの女子や同じΩの男子といることが 多いのも、Ω故に、特にαとは一線を引いているからだ。 少し甘めな顔立ちが故に、男女問わずαから 口説かれたことは何度もあるが、その度に 全て断ってきた。誰彼構わず、食い散らかす αがとても嫌いだったからだ。 自分の親がそうだったから、反面教師という やつかもしれない。 父や兄は、発情期のΩを慰めてる、と言っては 番にもせずに食い散らかしていた。 母がそれに胸を痛めていることも知っていたが 「αだから仕方ないのよ」と諦めていた。 αの父にβの母、αの兄にΩの僕。 成績はいつも比べられてきた。 兄ほどではないが、それほど成績を 落としてる訳では無い。が、 『Ωなのに勉強なんてなんの役に立つ?』 とバカにしてきた父と兄。唯一の味方は 母だけだった。 「努力することはいいことじゃないの?Ωだってαに嫁ぐなら、それなりのものを身につけてなければ、こっちが恥をかくわよ?Ωだからって子供を産む産まないの選択の自由はあるんじゃないかしら?差別ではないけど、特に男の子が出産なんて、命懸けで産むのよ?」 「優秀なαを出産する確率が高いのがΩだ。 特に男児を産みやすい男のΩは貴重だろう。 折角のΩがいるのに、俺や駿(しゅん)の子供を 身篭(つく)れないのが勿体ないとは思うがな。」 近親相姦など、ご法度だ。 父や兄ががそんなことを考えていたなんて、 ゾッとしない話だ。 そんな折、兄に見合いの話は来ていた。 兄には少し落ち着いた生活を、という 理由らしいが…… 兄にはΩの大人しそうな女性だ。 一流商社のエリートコースに上手く乗れた 兄には従順そうな彼女はお似合いだろう。 生活苦もないのだから。 兄は写真を見てとても気に入った様子だった。 僕の不安要素が減るのは安心材料でもある。 父は出世のために、そのうちに僕にも そんな話を持ってくるのだろう…… αにとって結婚は形式だけのものだ。 怖いのは父もふと漏らした『近親相姦』だ。 僕は強く人を惹きつけるフェロモンを出し、 妊娠しやすい体質らしい、ということ。 幼少期、最初の発情期の時に母に助けられたが 兄に犯されそうになったことがある。 発情後、病院に行き、発情期が 始まってからでは抑制剤は効かない、 ということも分かり、記録をつけて、 発情期が始まる数日前から薬を飲まなければ ならないことが検査でわかった。 薬の効きが悪いのもあるが、 薬を服用していても、完全にフェロモンを消す ことが出来ない。だから鼻のいいαにたまに 口説かれたりもする。 いわゆる、α嫌いなのだ。 僕自身を好きなのではなく、その『匂い』に 惹かれているだけなのだ、と悲しくなる。 だから、自分から好きになるようなαが 現れない限り、生涯を共にすることは ないだろう……と思う。 相手をにも『匂い』以外で僕のとこを『好き』 と言ってくれるような存在の人がいてくれるなら『最高の恋愛』ができるのだろうが、そんな人が存在してくれるのかは謎だ。 ただ、僕は『唯一』が欲しかった。

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