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第6話

「……ん〜、いい匂い。キミ、発情期?」 図々しく後ろから首筋の匂いを嗅いきた 知らない男が、ニヤニヤと笑っていた。 ――チャラそう…… それが第一印象だった。 場所から考えて同じ大学内の先輩のようだが、 雅に面識はない。が、服装からして高そうな 服に袖を通している。金持ちだ。 「初対面の方にそんなことお答えする必要は ないと思うのですが……?」 金を持っていようが雅には興味が無い。 「ごめん、ごめん。オレは医学部3年の 藤沢由多加、キミは1年の杉本雅くんだろ? オレは藤沢依知花の兄。義兄弟になる予定。 キミがΩだとは聞いてたけど、抑制剤飲んでて その匂いなの?それにしても危険だなぁ…… キミ、特殊Ωってやつだろ?オレも本でしか 読んだことないけど、想像以上だ。 俺の研究室の研究、手伝ってくれない?」 人体実験なんてお断りだ。 「何を手伝うというのです?」 「血液採取。ヒート真っ最中の特殊Ωの処女 なんてなかなか出会えないからね。 もっといい新薬を作って匂いが漏れないようにしたくない? まぁ、番を作ればいい話なんだろうけど、α相手にその態度が取れるということは、αがあまり好きじゃないと思ったんだけど?それに今後の特殊Ωの為になるとも思わない?」 図星であるが故に何も返せない。 「匂いで経験のあるなしがわかるのですか?」 今の言葉の中で1番の疑問点を問い返してみる 「今まで見てきた特殊Ωの中でとびきりのいい匂いだからかな……いや、匂いが澄んでると言えばいいのかな?経験者とは匂いが違うのは確かだな……依知花も特殊Ωだけど、未経験者では無いのでね。そういった意味では、かなり違うと言えるかな。」 ――聞いてはいけないことを 聞いてしまった…… 妹とはいえ、そんな個人的なことを平気で 暴露する人間を信用していいのか? 疑念が浮かぶ。しかも、妹の婚約者のにだ。 「……考えさせてください。」 モルモットのような扱いをされるのであれば、 そんなことを手伝う必要があるのか?という 疑念がどんどん膨らんでいく。 そう言って踵を返したところで、 腕を引かれた。笑っているが、雰囲気が怖い。 「そんなに足早に逃げなくても良くない? キミの顔に書いてあるよ?オレは危険人物 だって。そう思ってるんでしょ? 俺はただ、純粋に調べて、特効薬を作りたい、 って研究をしてるんだけどね〜……」 ――そんな善人のような人には見えない…… それが僕の正直な気持ちだった。 「モルモットになるのがイヤだと思ってるだけです。確かに僕のような特殊Ωは珍しいかもしれませんが、珍獣みたいな扱いをされる覚えはありません。 そりゃあ匂いを消せるならそれに越したことはありませんが普通のΩなら消せてるはずです。 しかも、兄と結婚するかもしれない妹さんの出来れば身内には秘密にしておきたいことを貴方は僕に教えた。 それがどういうことなのか、わかりますか? その答えがでたら教えて下さい。その結果次第で、モルモットになるかどうかを判断します。 通常であれば僕は貴方を信用することが出来ません。その理由がわからないようであれば、協力は出来ません。」 本当にそれがわからないのであれば、信用に値しない。依知花がどんな相手と躰を繋いだか、などはどうでもいい。結婚を前提に交際をしているのだから。 ただ、それをバラされるのはβであっても、 嫌なことのはずだ。 αの嫌いなところは、そういう無神経なところだ。好き、嫌いではどうしようも出来ないこともあるのだと、いうことにも気付けないようでは、人としてのつきあいもしたくはない。 親戚としては付き合っていかなくてはならないのだろうが、出来れば距離は置きたいタイプだと本能がそう叫んでるようだった。 一つの疑念が浮かんだ。あの男が『兄』のような男だったら『依知花』の最初の相手はあの兄なのではないだろうか? 人それぞれ、Ωの発する匂いは違えど、強烈な花の香りのような匂いでαやβの男を誘う。 ――僕はいったい、どんな匂いなんだろう?

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