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第7話

部屋に入り施錠する。たまにだが、 発情期になると、兄が入ってきたり、 鍵をかけてる時はノックをしてきたりする。 抑制剤が本当に効いているのか、とすら 思えてしまう。自己防衛は必要だ。 即座に追い出すけれど、勝手に入られるのは 気分が良くないし、僕は兄の部屋に入った ことは一度たりともない。興味もない。 部屋にいるのに、抑制剤を飲んでいるのに、 発情期の度に匂いを嗅ぎつけて来ることが 本気で怖い。同じ親から生まれたとは思えない ほどαとΩの差を見せつけられてる気がした。 αにも発情期はあるはずだが、それも薬で 抑えられる程度のものだったり、吐き出して しまえば治まってしまうものなのだろうか? αのヒートはΩが引き金になることが多い。 逆にαの発情期に引き摺られるΩもいる。 吊り橋効果で、そこで運命でも感じるのか? けれど、それも本当の運命出ない限り、 その場限り、その場しのぎのことでしかない。 最初の発情期を迎えた時には、母にも匂いが届いたくらいだから、結構強烈な匂いなんだろう、とは思う。 薬で数日前から押さえているとはいえ、例えが悪いが、トイレの芳香剤の移り香くらいはしているようだ。 特に鼻がいいαは首元まで鼻を近づけなくても 僕の匂いを感じるというのだから恐ろしい。 『唯一』が見つかって、番になってしまえば、 番にしか発情しなくなる。 けれど…… ここまで(こじ)らせているのだから、溺れてしまうのではないか……? それが怖い。 そんな事を思いながらその日は眠りについた。 発情期も終わろうという頃、兄の縁談が破断した。原因は依知花の妊娠がわかったからだ。 まだ、兄は依知花を抱いてはいなかった。 あのケダモノのような眸をした兄が、だ。 藤沢の両親も土下座ものの謝罪をして 破談になったのだ。 依知花のお腹の子供の父親が誰なのかはわからないまま、もう、縁がなかった家のことは詮索せずにいることが一番だ、という結論だった。 「妊婦のΩだったから、匂いが違ったのか?」 依知花との違いを僕に聞いてくるが、そんなことは知らない。 「処女がいい、なんて言わないけど、これは酷くないか?」 「……まぁ、そうだね……」 返す言葉が見つからないが……まさか、あの 医学部の実兄なのでは?と思ってしまった。 『うちにも特殊Ωがいるんだけど……』 そんな話を持ち出したこと自体、不自然にその時は感じてしまったが、男をの僕でさえ、あれだけ気を使っているのだ。女の子である依知花が自分の身を守らない、とは考えにくい。 たとえ初めてが、あの兄だとしても……だ。 しばらくはあの兄に付きまとわれるだろうが、あの家に関わるのはやめよう、という気持ちになった。

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