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第8話
藤沢依知花の兄……由多加は、血液採取に関してと、交際も強くアプローチしてきてかなりしつこかったが、それも2年生までで収まった。
あれから依知花は出産をして、私生児を産んだ。相手が誰なのか、ということは決して口にしない、ということだったが、兄――由多加は依知花の子供の父親ということを否定し、初めてを奪ったこともなければ、妹に手を出したこともない、とのことだった。
ただ、αの姉があやしい動きをしていたことがある、というようなことは言っていた。
『女性』という部分では、安心材料ではあるかもしれないが、Ωの男が女であるのと同じように、αの姉も男と早々変わらない、ということが油断はさせるのかもしれない。
医学部の5年生になると、医師の仮免許のような試験を受け、それに合格すると、臨床実習に入る。αである、あの依知花の兄が落ちる訳もなく、1年間かけてほぼ、全部の科を周り、ある程度の自分の方向性を決めていく。
最終的にどこの科に行くかは、医師免許取得後の初期研修期間の2年間で決め、後期研修入る頃には、専門的に学んでいくのだ。
大学4年になり、依知花兄も6年になり、僕は内定は3年で取れていたので、依知花兄は医師免許に向けての勉強で、医大生が学校に来ることは少ない。
昨年も臨床実習で、ほぼ学校にはいなかったので、発情期にちょっかいを出してくるのは頭の痛い兄だけだったが、その兄も、社内恋愛の末、Ωの女性と結婚をした。
番になった途端に、僕の匂いをそれほど意識しなくなり、今では産まれたばかりの子供のバカ親になっている。
身の危険の回避は今のところ出来ているが、このまま平穏な日々が続けばいい、と思ってる。
大手と呼ばれるようなところではないが、そこそこの広告代理店への就職が決まっていた。
ある程度の年齢になれば、このフェロモンも落ち着いて来るだろうし、生涯独り身でいようと思っている。
αなら大手に行けたのだろうが、Ωでは、そこそこのところにしか就職は出来ない、もしくは就職できるかすらも怪しいのだ。
僕は運良く内定をもらえたので、そこに就職をする予定だ。社員の大半もΩかベータだと言うので、大きく身の危険を感じることは無い。
平々凡々と生きて行ければ、それで良い……
そう思っていた。
――あの人に会うまでは……
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