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第10話

CMの仕事が舞い込んで来たのは、ポスターの 仕事が一段落した頃だった。 残念ながら、宮原麗子のCMではなかったが、 人気俳優の『嶺岸 樹(みねぎしたつき)』を起用した男性用肌ケア商品のCMだった。 見るからにαの中でも、フェロモン強めな 『抱かれたい男1位』 を毎年キープし続け、そろそろ殿堂入りするのでは?と言うほど、色々なベスト〇〇〇的な賞を総ナメにしているほどだ。 「さて、どう、料理するかね?」 相棒の大山那恵は、舌舐めずりをしている。 「……あぁいうタイプが好みなんですか?」 「へ?あれはクライアントでしょ?別にあたしの好みじゃないし、ファンではないけどね。 ただ、好き嫌いで仕事は来てないよ?ちょっと天狗気味の鼻をへし折ってみたいだけ」 「あはは……大山さんはどんなタイプが好みなんですか?」 「あたしは社長みたいに仕事をガンガン取ってくる人が男女問わず好きだよ?子供を作る気もないし、いらないし。嫌いなんだよね…… 世話できるタイプじゃないしさっっ!! 同性みたいなΩくんの前で言うのもなんだけど、あたしは生涯現役でいたいタイプよ。」 こういう強気なところが気持ちいい。 「……僕も他人(ひと)を好きになったことがないから、その感覚、何となく分かります。 もう少し年齢を重ねれば、フェロモンも減ってくると思うし、他人を好きになれる気がしないんですよね……仕事も楽しいし。」 「おっ!頼もしいね。さすがあたしの相棒!」 と言いながらハイタッチをする。 「……さて、コイツの料理方法についてだけどさ、αらしさを全面に出してやんない?」 ギラギラした目で企画書の修正を入れるが為パソコンと携帯型プリンだー 打ち合わせを料理に例えるところが笑えた。 以前も発情期の匂いについて聞いてみたことがあった。その時の返答が 「あたしはあんたのフェロモンの匂いは好きだよ?花の香りみたいでさ、なんて例えたらいいのかな……品のいい香水をつけてる感じ?」 この人となら、上手くやっていける、と思ったのもその時だった。 思った以上にサバサバした彼女は、発情期の度に、上機嫌になってくれていた。 「うん。センスのいい上品な匂いだよ。どうにかこの匂いをコピーした香水作れないかなぁ?あたしはΩじゃないけど、絶対にウケは良いはずなんだよね……それくらい、いい匂い」 と。香りだけならαへの刺激はないし、でも、好きな匂いだし……と。 だからといって、移り香は危険極まりない。 香水にしたい理由はそこにあった。 15秒のCMを作る上で、練られた案は納得のいく出来ではなく、案をいくつか重ねてみても、なにかが足りない、と2人で頭を抱えた。 再度、嶺岸樹のスチールを見つめる。 「あっ、ここをこうしてみたらどうでしょう?たぶんこの人のキャラからして、こうした方が魅力がグッと上がると思うんですよね」 「……うーん、そうだなぁ……まぁ、それだと他社も思いつきそうなんだよね……もっとこうさぁ、奇抜な感じ?強烈なインパクトを与えるのに……あ、CM用のサンプルのCD届いてるんだよね。とりあえず、全部のCDから1曲を決めなきゃならないじゃん?曲を聴いてみてイメージしてみない?」 山のように積まれた各レコード会社からの発売前のサンプルのCDを1枚1枚聴いていく。 みんなが知ってるベテランや対アイドル、無名のアーティストまでそれはそれは曲も歌声も違えば、あとはイメージに合えば採用する。 『これだ!!』 という曲を見出す作業を始めた。 全て聴いた上で決めた曲は2人揃って同じ曲だった。そこからイメージを膨らます作業に入り、絵コンテを仕上げていった。

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