11 / 192

第11話

プレゼンが上手くいき、自分たちの案が採用されることになった。今度は演じてもらう本人も混じえての打ち合わせに入ることになった。発情期を終えたばかりなので、当面はαも影響を受けることはないが、チョーカーが自分の性を教えてしまうことになる。 顔合わせの時が一番緊張する。 会議室で、忙しいタレントを待つ。 マネージャーとスポンサーにはすでに説明済みだが、出演する本人にも、絵コンテでは伝えきれない部分を説明すれば、今日の打ち合わせは顔合わせも兼ねてのものなので終了する。 ノックもなしに突如入って来た『嶺岸樹』は全体を見渡した、と思うと目線が僕の首元に戻り、また、目線を逸らしてから前を向いて 「遅くなりました。おはようございます」 と挨拶をして、小さく頭を下げた。αなのに謙虚でしっかりした人、というイメージがついた。彼はマネージャーの隣に空いてた席に腰を下ろす。 近づきすぎないように、反対側(と言っても5mは離れてるだろう)の席でスライドを使い、本人が見やすい位置で、僕がパワーポイントの操作をし、大山がマイクを持って説明をする、という手順で詳細を伝えていく。 1度聞いただけで全てを理解し、こちらの意図も読み取ってくれた嶺岸は、αである前にさすがのプロだと実感させられた。 「……では、以上となります。お忙しい中、お集まりいただきましてありがとうございました。次回は撮影となります。また、よろしくお願いいたします。」 大山と僕は立ち上がり、頭を下げる。 そのままスポンサーと嶺岸たちは出ていき、ホッとした大山とフッと微笑んだ。 すっかり癖になってるハイタッチをして、会場の片付けをしようとしていた。 視線を感じて振り返ると嶺岸樹がドアにもたれこちらを見ていた。背も高く、スタイルのいいαの男……露出が多い彼が、その服の下にバランスのいい筋肉を持っていることを知っている。Ωの僕には絶対に作れない躰だ。 「なにか御用ですか?ご不明な点がありましたら説明しますけど?」 大山が嶺岸に声をかける。 「いや……不明な点はない。ただ、見てるだけなのでお構いなく……」 確かに彼の事務所の会議室なので、見ていても大きな問題はない。逆に別の打ち合わせがあって、待ってるのかもしれない。 「大山さん、もしかしたら次があるのかも。早々に片付けて、帰った方が良いのかもしれませんね……」 と耳打ちする。 「そういうこと?じゃ、急ぎましょ?」 テキパキと片付けをして会議室を出よう、とした時にドアにもたれてた嶺岸に、 「お忙しい中、今日はありがとうございました。また、撮影の時よろしくお願いします」 と、頭を下げて部屋を出ようとした時に 「撮影にはあんたも来るんだろうな?」 「……僕ですか?その予定ですが……」 「わかった……やっとあんたの声が聞けたな。オレはあの案嫌いじゃないぜ?」 その後耳元で「あの案、大半があんたの案だろ?」と囁いてきた。 驚いて耳を押さえて、少し後ずさる…… 「嶺岸さん、うちの相棒を口説かないでくださぁ〜い 。これでもピュアピュアなんですから」 「ピュアピュアって……」 僕は苦笑いするしかなかった。 嶺岸に一礼して、彼の所属事務所のビルの外に出る 「……あれは気をつけた方がいいわ」 不意に大山がつぶやく。 「……気をつける?何をです?」 「だから、ピュアピュアなのよ、あんたは。 アイツαじゃん?Ωのあんたを完全にロックオンしてるね。Ωなら食い散らかせると思ったら大間違いなんだから!! いい?当日は、あたしから離れない方がいいからね?」 「わかりました」 と微笑んだ。頼もしい。本当にこの人は精神的にたくましく、女とは思えない男気のある人だと思う。 ――それにしてもなんだったんだろ…… 耳打ちされた時に感じた不思議な感覚…… 僕は未だ、その正体に気づけずにいた。

ともだちにシェアしよう!