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第12話

撮影当日も、ずっと大山の影に隠れるようにして、挨拶に回った。共演者の男性たちもみんなαだ。まだ、発情期までには2ヶ月弱ある。 自然にしてればβと変わらないし、匂いを出すことも無い。唯一の不安材料はチョーカーだ。 撮影だからといって、外すわけにはいかない。 そこのスタッフさんたちは顔見知りの人達ばかりで、胸をなでおろした。 「しかし……嶺岸樹の全てを晒すって奇抜なコンセプトだね。」 「上半身だけですけどね。あの筋肉を隠しておくのはもったいない!!」 答えたのは大山だった。魅入られてみたかった。αの最高だと言われる嶺岸が持つ筋肉と演技力を…… 先に支度の終わった女性が仕事に行く、と頬にキスで彼を起こす。眠そうにしながらベッドから上半身裸で洗面台に行くシーンが今日だ。後日、外でスーツ姿で出勤風景のようなものを撮る、ある意味スタンダードなCMだ。 ただ、ズボンのボタンが外されていて、先に出ていった女性との情事を匂わせている。 洗面台で活躍するのは、その会社のメンズ肌ケア化粧品だ。セリフを言いつつ、肌につけていく。女性のように化粧をするわけじゃない。あくまでもケア製品だ。 1発OKで、そのCM撮影をこなし、撮ったもののチェックをする。僕も大山も想定通りの映像に満足をした。ただ、違和感を感じていたのは嶺岸だった。 「奇抜さを演出するなら、βやαじゃなくてΩを使う方が、インパクト残りません?」 「そんなに急にΩの女優なんてオファーを受けてくれませんよ!!」 つい僕が大きな声を出してしまう。 「Ωならいるじゃん。あんたがオレの相手をすれば良くない?」 「僕は制作会社の人間で!!女性でもないし、顔だしなんて……」 「うちのピュアピュアを、使おうって言うんですか?」 「ピュアピュアだからいいんじゃないっすか?オレとしては……」 とコンセプト変更を提案していく。 その案に監督がノリノリになった。 「ピュアピュアも良いが少し色気は必要だな。次の撮影までの間、オレと過ごしてもらう。少しαと生活すれば、少しは使い物になるだろ」 「ちょっっ!!勝手に決めないでください。 僕の父と兄はαです!!僕はαとの生活経験はあります!!」 「家族じゃ意味ないよ。ないのと同じ」 言葉尻にハートがついてるような言い方だ。 何を考えてるんだ?この人は…… 大山は急いで会社に電話をする。社長からのOKが出てしまった……大山と僕は頭を抱えることになる。 『いくらαだと言っても、彼の経歴はクリーンだからね、浮いた話も出てきたことないし、別に取って食おうって訳じゃないだろうし、仕事としてのコミユニケーションだろうし、彼ほどの人物なら、相手に困ってないだろうからね。コネクションとしては最高の人物だと思うよ?』 と。 「……わかりました……とりあえず、荷物だけ取りに行かせてください。」 「そんなもんいらねぇよ」 「僕は抑制剤を飲まないととんでもないことになるんです!少なくても準備させてください」 「あ〜、なるほど。だから、たまに撮影に来ないんだね〜」 ――監督も余計なことは言わないで下さい と横目で訴える。 なんで、こんな有名人の『α』と同居しなきゃならないんだ…… ため息しか出てこなかった。

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