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第13話

最低限の荷物をまとめて、下のエントランスで待ってくれている峰岸の車に乗り込んだ。 後部座席に乗ろうとしたら、助手席に乗れ、と命令された。 「あんた、なんでαに慣れてないの?」 「さっきも言いましたが、父と兄がαでしたけど、発情期はβの母の手助けもあって、部屋に引きこもってました。僕は特殊Ωなんですよ。 兄に犯されそうになったことは1度や2度じゃありません。それに僕は初恋すらしたことない、人間としても欠陥品です……」 少し峰岸は考えた様子で、 「じゃ、オレのことを好きになってよ?悪いようにはしないからさ。疑似恋愛でもいい。恋をするって楽しいってことを覚えた方がいい」 なんて残酷な言葉なんだろう…… 疑似恋愛……本物の恋愛ではない。 CMのイメージ作りだけの恋愛。撮影が終われば、全てが終わるもの…… もし、本当に恋をしてしまったら、僕は液晶越しに動く彼を見つめ続けるしかないのだ。 もしくはスチール写真で…… その度に痛む胸を掻きむしりながら、 彼の活躍を見守るしかなくなる。 拗らせてる僕に、そんな気持ちを植え付けたらどうなるのか…… この人は本当に知らない。 到着したのは、僕の給料を遥かに上回る家賃であろうマンションの一室だった。 「まずはハグから始めようか」 「え?ななななな……なに……を……」 「ベッドシーンがあるんだ、服を着たままでいいんだから、ハグをしてみようよ」 軽く言ってくれる。 「言ったでしょ?僕は特殊Ωなんです。何があっても知りませんよ?貴方の芸能生命を脅かす要因になるかもしれないんです」 「う〜ん……じゃ、オレの一目惚れだと言ったら?それでもダメ?」 「ダメです。」 「じゃ、強行突破しかないかな?」 何をするのかと思ったら背後にあったふかふかのソファに押し倒された。 「今は発情期では無いので、βの男と変わりませんよ?」 「良いよ。別にそれだけが目的ではないし。 まずは『オレ』というひとりの人間に慣れて欲しいから」 そう言って逃げられないように、頭を抑えてキスをしてくる。初めてのキスに戸惑い、文句を言おうと開いた口の中に舌が入り込み、口腔内を暴れ回り歯列をなぞり、上顎を舐められる。初めての粘膜での快感にゾクゾクと躰が反応していく。これは男の本能の方だ。けれど…… ――ヤバイ……躰が勝手に…… 経験したことのない『気持ちがいい』という感覚……キスが、他人と触れることが気持ちいいというのは厄介なものだと思い知るが、まだ、キスなど序の口だとも知らずにいた。 次第に中心が形を変えていくのがわかる。 布を押し上げてるのを見られたのか、そこを膝でグリグリと擦られると口唇を塞がれている所為で、鼻からくぐもった声が漏れる。 「男の躰はわかりやすくて良いね……ちゃんと感じてんじゃん。キスだけでこれだけ感じるって、どれだけ初心(うぶ)なの? ギャップ萌えだわ〜!!すげぇ可愛いんですけど……でも、オレも気持ちいい……た〜くさん気持ちよくしてあげたくなってきちゃった。」 「……やめてください……だから……言ったじゃ……ないですか……はぁ……僕は恋すらできない……人間としての……欠陥品……なんですよ……?貴方ほどの人なら……僕じゃなくたって……他の人にしてください……」 息も絶え絶えにそう伝える。強烈なキスに立ち上がることも出来ず、酸欠状態で言葉を紡ぐ。 申し訳程度にしかついてないのに、乳首を乳暈から先端へと指がクルクルと擽る。 その度にビクッ、ビクッと躰が反応してしまう 「じゃ、オレと本気で恋してみない……?」 耳朶に囁かれる言葉はとても甘美なものだった。と、思うのも束の間、αのヒート状態の爽やかなライムのような香りがブワッでと目の前に広がる。 ――ヤバイ……引きずられる…… 発情期まではまだあるのに……爆発する!! 「……あ……あ……あ……あぁ……」 苦しい……苦しい……苦しい…… 最初の発情期の時を思い出すような、濃厚な官能を刺激する、花のような香りがこのときを待っていたように吹き出し部屋に充満する。 「……うわ、マジですごい、いい匂い……」 ほぼ初めての本格的な発情に苦しくて眦から 一滴(ひとしずく)の涙が伝った。

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