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第15話

長い吐精の間、優しく抱きしめられながら、嶺岸は愛しそうにキスをひたすらしていた。 荒い息を整えながら、初めてのαとの行為の 余韻に浸っていた。でも、この状態(ヒート)になってしまったら、1週間は外には出れない。 僕のヒートは薬では治まらない。だからこその準備を毎回、神経をすり減らして頑張ってきたのに…… 「オレが責任をもってその発情期に対処する。その為の休みはとってあるし。」 ――用意周到なんだな。 「その間にオレを好きになってくれたら、噛んでもいい?で、一緒に暮らさない?」 なんてとんでもないことを言い出すんだ?この人は…… 「……だいたい、貴方、抱かれたい男No.1を何年やってるんですか?貴方なら相手はたくさんいるでしょ……」 言いかけて涙が出てくる。なんで……? 頬を伝う涙を舌で絡め取り、愛しそうに抱き寄せながら頭を撫でてくれる手がすごく気持ちいい。 「初めてをもらったし、言ったでしょ?一目惚れだって。それに君みたいなフェロモンの持ち主はどんな仕事をしていても危険だ。今の仕事をやめろ、とは言わない。逆に目の届くところにいてくれた方がオレとしても嬉しいし。」 「そんな冗談みたいな話、信じられません」 「冗談じゃないんだな〜。オレだって、君の言うような男だったりしたら、手当たり次第に食い散らかしてるかもしれない。でも、どんな仕事をしてても、誰かと話していても、その人に魅力を感じることはなかった。でも、会った瞬間に君しか見えなくなった……わかる?」 「『運命の番』ですか?」 「少なくてもオレはそう思ってる。今まで君が出会ってきた誰だって聖人君子はいないだろうから、過去の一つや二つはあるだろうが、そこに運命を感じて番になった人は少ないと思う。 オレは『唯一無二』の相手が欲しいと思って生きてきた。αだからって無差別に番うことはしたくないし、番を大事にしたい。βの夫婦のようでありたい、と思ってきたよ?実際、じーさんばーさんはαとΩだったけど、両親はβだ。俺は隔世遺伝なんだよ」 少しはにかんだ笑顔で笑う。 「……1週間以内に……僕が貴方を好きにならなかったら……?」 「……自信はあるんだけどなぁ……でも、諦めたくないから期間延長してでも、君を口説き落としたい。二度とこんな出会いはないよ。」 ――なんでそんなこと言いきれるんだ? 『恋』をしたことがあったのなら、きっと同じ気持ちになれたのかもしれない。でも、僕にはその感情が欠落している。 「オレとのセックスは気持ち良くなかった?」 ――なんてことを聞くんだ、この人は…… 言われた途端に頭に血が上ってくのがわかる。きっと真っ赤になってるだろう…… 「……良かった……です……優しかったし……その……気持ち……良かった……です。」 髪を撫でてくれていた手が離れて、両手で抱え込まれる。 「なに、この可愛い反応!!もう監禁しちゃいたい気分なんですけど〜!!」 なに、物騒なことをシレッと口走ってんだ? 僕の思い描いた『唯一』と彼の思い描いている 『唯一無二』似ているけれど、少し違う。 『唯一』はただ一人だけ、『無二』が着くことで、代わりが居ないこと。 本来なら僕がそれを思っている方が正解なのだと思うけれとαにそういうタイプの人がいることが意外だった。 「ゆっくりでいい……オレを好きになってくれたら嬉しい……」 その真剣な眼差しについ絆されそうになる。 「これだけ(こじ)らせてるΩは面倒臭いですよ?」 「拗らせてようがなんだろうが、オレは君しか考えられない、って言ってるんだよ?君がオレと出会う為に無垢でいてくれたと思うんだ。」 ――今度はご都合主義ですか…… 1種間後の撮影までに、僕は大山とリモートで打ち合わせをすることになった。 社長もそれを快諾してくれた。が、一言言いたかった。 「社長、なんでこんな生活を快諾したんですか?おかげさまで僕は外に出れませんよ……」 『え?なに?ヒート起こしてんの?発情期はまだ、先じゃなかったの?』 「……先の予定でしたよ……」 『それってさ……私の経験上の話だけどね、αとΩにも相性があると思うんだ。杉本くんがヒートを起こしたのなら、それはそれで良いことだと思うんだよね。彼はエロさを売りにはしてるけど、スキャンダルもないクリーンさを売りにもしているし、彼がその気になるなんて、業界としてはびっくりものだよ?』 「他人事だと思って……」 『本当の話さ。彼はどんな女優にすら口説き落とされるともなかったくらいだからね。さぞかし魅力的だったんだろうね』 「はい、それはもう!!今すぐにでも番にしたいくらいなんですけど、なかなか口説き落ちてくれなくって〜。でも安心してください、仕事は辞めなくて良いとは伝えてありますので。」 「なんで、嶺岸さんが入ってくるんですか!」 「うだうだ悩んでるよりいいでしょ?というわけで、社長、雅が欲しいんですけど……」 『その挨拶はご両親にしなさいね。私は反対しないよ?キミがクライアントになってくれるなら私としてはなんの文句も出てこないからね』 薄情な社長のセリフが頭の中に響き渡る。 ――社長と大山は仕事大好き人間だった…… けれど、大山に知られたら大問題だ。嶺岸がシャワーを浴びてる間に、と思っていたが、いつの間にやら飛び入り参加をされてしまった…… 通話を切るとキスの雨が降り注ぐ…… 「……本当にいい匂い……」 眸の中のαとしての彼と目を合わせたが最後、躰が動かなくなり、寝室に連れていかれる。 一体、この家にはシーツが何枚あるのだろう?今も体液で汚れたシーツを数枚洗濯してるが、また、新しくベッドメーキングされている。 優しくサラサラのシーツの上に下ろされると、噛み付くようなキスから、そのままセックスになだれ込む。この爛れた生活が1週間も続くのだ……自分のヒートの管理が出来てないのが一番の原因だが、薬を服用しても、なんの変化もなかった。 「……オレの唯一無二の雅……愛してる……」 『ベッドの中での言葉は信じるな』というし、ピロートークだと受け流そうとするが、愛しそうに繰り返される愛撫と言葉に迷いが生まれてきていることは確かだった。

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