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第17話
長い射精の間、ひたすらキスを繰り返された。
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「まだ、好きになってくれない?雅 が本当にオレの番になってくれたら嬉しいのに。オレは本気だよ?本当に大事にするよ?ならない?」
いわゆる賢者タイムだ。まだ出来るよ?という顔をしながら、言う……
「……なりません。あなたなら、僕じゃなくたって選り取りみどりじゃないですか。何も欠陥品を選ぶ必要なんて……」
言葉を遮るように口唇を塞がれる。
「自分で欠陥品なんて言ったらダメだよ?欠陥品なんかじゃないから。これからオレをたくさん知っていって?それでもオレを好きにならなくてもさ、誰とも番う気がなければないなら、オレを選んでよ……ね?」
この人は何を言ってるんだ?自分の人気を知ってて……あの『嶺岸 樹』が男のΩと番になった、となったら大スキャンダルだ。
せめて女性のΩなら『祝福』されるだろう……
ベッドを共にして3日が経ったが、ヒートの熱が引く気配はない。ベッドの中でも、それ以外でも、顔を合わせれば『好き』を言ってくる。
ベッドを離れてても、外には出れないから部屋の中で過ごしているが、さすがは有名芸能人、といった部屋の広さは雅の部屋の何倍もある。
「……何回抱いたらオレのモノになってくれるのかなぁ……?いっそ妊娠してくれた方が早いのかなぁ?もっと注がないとダメかな〜?」
ぽそりと聞こえるように呟いている。
「聞こえてますよ?あなたは自分が有名人だという自覚はあるんですか?なんの取り柄もない僕なんかを番にしたら……」
そう言ってる自分の言葉が、何故か切なく自分の心に響くのは何故だろう……
だが、即座に嶺岸は
「有名人だからなに?僕なんか、なんて言わないで?オレを否定してるのと一緒だよ?」
「嶺岸さんを否定はしてません!!」
「たつき!!……ベッドの中で教えたでしょ?それはベッドの中だけの話じゃないからね?」
間髪入れず名前の訂正をされるが……
いきなり呼べるわけもない……
「僕はただの広告代理店の従業員で、貴方はクライアントなんですよ?芸能人なんですよ?」
「オレはそう思ってないよ?一人の男として見て欲しいと思ってる。何度も言ってるよね? そこに仕事とか、関係ないと思うんだけど?」
腕を組んで話している姿も、ドラマを観てるような気分だ。そんな姿さえも様になる。背が高く、程よく筋肉のついた躰……貧弱な躰の雅には羨ましくて仕方ない。
Ωとして生まれてしまったのだから仕方ないとしても、女性的な体つきでもなければ、ただ、裸になれば、普通のβの男性と変わらないのだ
唯一違うのは、女のように子供を宿すことが出来る躰だ。絶対的な関係の中で、男として生まれたのに、抱かれる為の存在……
母は面倒くさい娘を育てるような感覚で子育てをしてきたのだと思う。
――発情期なんていらないのに……
必要のないものなのに……
確かに誰かの番になれば、面倒くさいことからも開放されるだろう。
彼の言う『唯一無二』であるなら……
しかも『一目惚れ』なんて、余計に信じられる要素が少ないように思うのは僕だけだろうか?
確かにαとΩの間には、そういったインスピレーションのようなものもあると聞くけれど……
僕がそれを感じとれているのかさえ謎だ。
なにかモヤモヤしたものは自分の中にある。けれど、それがこの有名俳優に対する憧れなのか恋なのか、の区別がつかないのだ。
では、彼が一般人だったとしたら……?
想像も出来なかった……αの中でもとびきりの遺伝子を持つであろう彼が、芸能以外のなんの職に向いているか、が思い浮かばなかった。
僕が物心着く頃にはすでに芸能人だった。名子役としての地位を確立していたのだ。そんな人を相手に抱かれてる、というのはそれだけで、すごいことなのかもしれない。
これまでのクリーンなイメージからはかけ離れた、この爛 れた生活が嘘のようだ。
と言うよりも、最初から手馴れてなかったか?
「……樹さん……経験人数ってどれくらいいるんですか……?」
「突然なに?!オレは……雅が初めてだけど?雅は違うの?」
少し目が泳いでいる。初めてではないようだ。その人にも運命を感じたのかを聞きたいのに、その言葉が出てこない……
「……いえ、初めてです。発情状態 になったのも初めての時以来で……」
「……その初めての時にそばにいたのがお兄さんなんだよね?お母さんには感謝だな……」
苦虫を潰したような言い方をし、首筋に匂いを嗅ぐように顔を寄せる。
「……この匂いを知られてるだけでも、本当に嫌なのに……で、お兄さんは?」
「今はΩの女性と結婚して、子供が生まれたばかりで、娘にデレデレしてます。まだ、性別は女の子、ということしかわかってません。」
「αならいいけどな。Ωだと父親でも危険だからね……雅もそうだったでしょ?」
「……なんでそんなことを知ってるんですか?ご兄妹にΩでもいらっしゃる?」
なんでαの彼がそんなことを知ってるのか?
そんな疑問の方が先に立ってしまった。
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