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第18話
「……いや、従兄 がね……そうだったから……そういったことがあるって……」
――この歯切れの悪さはなんだろう……?
確かに、少ない話ではない。初めてが身内のことも少なくないし、学校帰りに狙われた、ということも少なくはない。圧倒的に少数であるにも関わらず、事件が絶えないのは、それだけ無垢でいること自体が難しいのだ。
「そういった意味では、オレは恵まれてると思うよ?雅が誰かに傷物にされてたら、その相手を追い込んでどうにかしてやろう、って思っちゃうくらいにはね……」
眸が本気だ……本当にやりかねないのが怖い。
「……それはやめてください。」
静かにそう言った。いくらαでも、兄は兄だ。
例え、押し倒された、といってもヒート状態のΩにαが抗うのは互いに無理なのだから……
Ωが抑制剤が効くか、精液を注いでもらわないとヒートが治まらないように、その甘い匂いに誘われたαは本能で……酷い時には複数に襲われてしまうこともあるのだ。
それが原因 で、ヒートをしなくなってしまうΩも存在はする。
けれど、『運命の番』に会った瞬間に、そのトラウマが外れることもある……と。
互いに発情状態 となり、求め合うのだと……
僕が最初のヒートを迎えた時には、点滴で抑制剤を入れた。錠剤ではおさまらなかったのだ。点滴も1本では足りず、数日の入院を経てだ。
抑制剤が効きづらい体質なのだと知り、強い薬を発情期 の数日前から飲まなければならない。
ヒートが始まれば、定期的に香りが強くなる。1回のセックスでおさまるのは数時間ほどだ。子供を産む気などなかったから、気をつけてきた。セックスも知らずに生きてきた。
知らないままで良かった……
こんな快感を知ってしまったら、躰が期待してしまう……たとえ薬で発情 を抑えていても。
そもそも、嘘をつかれるのは好きじゃない。
例え、Ωに流されたとしても、経験があるならそれは初めてとは言わない。逆にΩを僕のように誘発したこともあるのかもしれない。
なら、なおさらに『一目惚れ』なんていう言葉は理解出来ないし、信じられない。
このヒートが終わったら、全てを終わらせる覚悟をした方が良い。『好き』という感情は僕にはいらない。必要のないものなのだから。
ただ、クライアントとしてのコネクションは、社長が求めているものだ。それだけは失わないように、程良い距離を保ちつつ、接していればいい。今はただ、獣のように交じりあえばいいのだ。そう決めたら気持ちが少し軽くなる。
『スキャンダルのない、クリーンなイメージの大物俳優』?
笑わせるな。ただのセックス好きなαの男以外の何者でもないじゃないか。
スキャンダルなんて事務所でいくらでも、もみ消せるほどの大物だ。
『愛してる』『好きだ』なんてセックスの最中の戯言に過ぎない。睦言 を信じていたら、何人とセックスすれば自分は満たされるのか?
バカバカしくなってきた。早くヒートなんて治まれば、さっさと家に帰れるのに……
そしてまた息苦しいほどの熱が躰を駆け巡る。それと同時に、百合の花のような強い香りが自分から発して部屋に充満する。その香りに自分までよったような感覚になる。
――苦しい……
自分の中に渦巻く熱に胸を掻きむしるような息苦しさに着ていたTシャツの胸を握りながら膝から崩れていく……
「雅〜、なんか食べ……」
部屋に入ってきた嶺岸が言葉を止める。
「……雅!!」
息苦しさに呼吸が上手くできない。
キスで唾液を飲まされる。
そんなことでも呼吸が楽になる。
ハァハァ……と喘ぐ息が少し楽になる。今までは寝る頃に発情していたけれど、終盤に近づくにつれて周期が短くなるものなのか……?
心配そうに顔を覗き込む嶺岸とは対照的に、僕は青ざめていった……
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