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第22話

「……そうか……確かにαに引き摺られることもあるけど……そんなにそのお相手は君が欲しかったのかねぇ? その年齢になればαは意図的じゃないとフェロモンは出ないはずなんだけどね…… 基本はΩに引きずられることが多いはずなんだけど、思春期の子にはたまに制御が効かなくて最初の頃には発情期を迎えちゃう子はいるにはいるらしいけど…… 相手にそこまで想われてるのに、どうしてそのお相手とは番にならなかったのかい?」 主治医の無責任な言葉に呆れつつ、 「……僕は『番』を作るつもりはありません。今回のことで懲りました。ヒートの時のあの苦しさはあまり体験したくないです。」 「……そんなに苦しかった?」 何故、そんなに不思議そうに尋ねる? 「息もできないくらい苦しかったです。けど、唾液を貰うと呼吸が出来るようになりました……それまでがすごく苦しくて……」 「たぶん、それはかなりその相手との相性が良くて、『運命の番』なんじゃないかな?ヒートは確かに苦しいはずだけど、そこまでじゃない。お相手の見る目は確かなのかもしれないよ?相手は男性?女性?」 「……残念ながら男性です。」 「別に残念ってことは無いだろう?αとΩは男と女の結婚が決まっている訳でもないし、αとΩならおかしなことじゃない。番になれば、ヒートの時の症状は軽減するかもしれないよ? 抑制剤も必要なくなるし……あ、これ一般的な例ね。君の場合は必要かもしれないけど、悪いことだらけではないと思うよ?その相手も君に『運命』を感じたんじゃないかな?初対面だったんでしょ?」 ――だけど、相手が悪い…… 「まぁ……そうですけど……僕にはわからないんですよ……人を好きになったことがないんです。人を好きになるなんて気持ちなんて……」 少し俯いて、心が寂しいと軋んでいるのは確かだ。嶺岸に触れてしまったことで人肌恋しいのだろうか……?僕にとって最悪でしかない。 けれど、1番聞いておかなければならない事を聞かなければならない。 「先生、次の発情期は予定通りに来ますか?それとも今回、強制的にヒート状態にさせられた日ですか?」 少し医師は考えていたが、 「前例がないからねぇ……わからない、というのが正直なところかな。君みたいにヒート状態のまま運命を感じて番になってしまうΩの方が大半だから、あまり症例がないんだよ……」 期待はしてなかったが、予想通りの返答だった。あんなに苦しい思いをするなら、番になった方が楽になる、その相手が好きだと思えば、番になってもおかしくはないだろう。 僕にとっても、呼吸が出来なくなってしまった時、唾液をもらった時の息苦しさからの解放は救世主にも思えるほどの強烈なインパクトだった。ただ、それが『運命の番』かどうかの判断なんてできる訳もなく…… なんの収穫もなく、少し多めに処方してもらった薬を手に病院を離れた。 彼の言う『唯一無二』になれる自信もなく、僕の『唯一』が彼なのかも分からない。 ビビっとくるような出会いではなかった。『運命の番』はあったその瞬間にわかるというが、嶺岸は気付いた、と言っていたが僕には『それ』を感じることも気づくこともなかったのだ。『経験不足』だと言うならそうかもしれないし、違うかもしれない……  

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