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第25話

「次の現場はどこだっけ?」 大山が雑なステアリングで運転してきたが、国道二号線に入り、ほぼ直線道路となった為、やっと僕も落ち着いて話が出来そうだった。 向かってる方向が決まってるのに聞いてくるのはどういうことなんだろう?僕らは川崎から品川区にある五反田駅方面に向かっている。 「……えっと……五反田で撮影ですね」 「その次は?」 「大崎で打ち合わせです。その後、東品川で撮影です。今日はそこでたぶん、終了です」 「いいよ〜、そのスケジュール。ま逆方向ならぶん殴ろうと思ったから。」 本当にやりかねないから怖い。ハンドルを握りながらパンを齧る姿も毎日のハードスケジュールの中で、見慣れてきてしまった。 車酔いをしてしまうので、最低限の情報しか目に入れずに手帳を閉じる。微かに躰が熱っぽい気がするが、疲れが溜まっているのだろう。 「ほら、ちゃんと食っとけ。身体が持たないよ?いくら私が運転でも、疲れるんだから」 「……いえ……食欲はちょっと、今なくて……ゼリーを後で買うので、大山さんの用があるときでいいので、どこかのコンビニに立ち寄ってくださると嬉しいですが……」 「キツい時は言いなよ?無理は禁物だからね?長期で休まれると困るのはこっちだから。」 ここまではっきり言ってくれると、怒りを通り越して苦笑いするしかない。逆の立場でも同じことが言えるだろう。 五反田は雑然としていそうで、色んなものがある街だ。そのビルとビルの間での撮影となる。 現上皇后様の実家があることでも有名な土地だ。その辺は高級住宅街になっている。 前もって一定時間の通行止め申請を出しての撮影だ。元々裏道ではあるから、車の通りは多くないが時間帯によっては人通りがとても多い場所だった。午前10時からの一時間半がリミットだ。簡単な打ち合わせを済ませて即座に撮影に入る。子役の子が数回NGを出すものの、時間ギリギリには撮影が終了した。 CM用のポスターは後日、スタジオで撮影をする予定になっている。 カメラマンがスチール用の背景写真を数枚撮影して終了だ。僕らはまた車に乗りこみ某有名企業の会議室に通される。 そこで次のCMについて、広報の人数人と打ち合わせをして、東品川に向かう頃には陽が傾き始めていた頃だった。 撮影は夜になってから、夜景をバックに撮影される為、問題はなかった。到着した時にはオフィス街から帰路を急ぐ人達がゾロゾロと出てきていたが、撮影クルーが到着する頃にはその人波もそぞろになっていた。 俳優たちが順々に到着し、それぞれのスチールを撮影していく。完全に陽が落ちてからが本番だ。台本の読み合わせをして、用水路脇のカフェでくつろぐ恋人たち。周りにいるのはエキストラの皆さんだ。店の中には本物のお客さんがいたが、オープンカフェは貸切になっている。 夜は酒も振舞ってる店だけに、撮影など気にすることも無く、自分たちの話に花を咲かせていた。自慢話や、愚痴、それぞれの個性が見え隠れしていて、それだけで僕も楽しい気分になってくる。けれど、雑音が多い、ということで、その時の会話は後日アフレコ、という形になった。撮影の合間中、大山は撮影に集中し、僕はマネージャーたちに挨拶をして回った。 そんなこんなで、その日の外での仕事は終了したのだった。

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